Star Dust Story Part 2: Turn Back The Hands Of Time

世界遺産。

100円玉をスロットにいれる。カランカランと音を立てて硬貨が中に吸い込まれていく。聴きたい曲を決め、選曲すべきボタンを押す。Lの6・・・。マシンがかなりよれた7インチシングルを探し、所定の位置にセットし、シングルが回り始める。針が盤に触れる。1-2秒音楽が刻まれる前の、無音の音溝をなめる音がする。音が出るまでのこの瞬間のわくわく感はなんと言ったらいいのだろう。さすがにこれはCDでは味わえない至福の瞬間だ。そして、ベースラインの音が始まる。

「な、な、なんだ、この音~~~」 あまりの音の擦り減り方に呆然とした。こんなにレコード盤が磨り減っている音を聴いたことがない。”sittin in the morning sun…”  あれえ、音が薄くなっている。しかし、まぎれもなく、それは「ドック・オブ・ザ・ベイ」。いかにも年代物のジュークボックスから流れてくる音はジュークボックス特有の野太い音。うまく表現できないが、新品のレコードの音量・音質を10としたら、もうこのシングル6か5くらいしか、音がでていないのではないか、そんな風に思った。

林さんが、ジュークをあけてシングル盤を出して見せてくれた。その姿は、なんと壮絶なことか。擦り傷なんてものではない。ぼろぼろになったつやもない盤面が姿を現した。これだけ磨り減っても音がでるヴァイナルのレコード盤の力強さよ。こうして出てくる音は、どんなに最新の機材で加工しようにも再現できない。それこそ四半世紀、こすり続けて音を鳴らしてできた「使い古し音盤」という名の世界遺産だ。

「これね、つのだひろのサインだよ」と言って見せてくれたのが、チークの定番「メリー・ジェーン」のシングル盤。本人が来た時に、これが入っているのを喜んでサインをしていった。

林さんはここに入っているシングル盤80枚のほかにまだ4-500枚は持っているという。オリジナルにこだわる。これらは、最初は米軍の兵士たちが、自分たちが聴きたいシングル盤を置いていったりしたという。ボトルキープならぬレコードキープだ。だから、そうした連中は自分が置いていったシングルがもし、ジュークの中にないと怒る。そこで店もなかなかシングルの中身を変更することができない。

となりのポールスターは今はイヴェントなどでしかあけないが、かつては毎日営業していた。ポールスターとこのスターダストはどのようにすみ分けがなされていたのか。林さんが教えてくれた。「簡単ですよ。あっち(ポールスター)は、上官が来ていて、こっち(スターダスト)は、比較的ヒラみたいな普通の兵隊が来てたんだよ。ほら、船長と普通のは、一緒に飯食ったり、飲んだりしないでしょう。いつのまにか、同じような身分同士で飲むようになるんだね」 なるほど。

カウンターの向かい、酒瓶が並ぶ壁に今も残る「1ドル 〇〇円」の看板。「昔、(正式には)両替ができなくてね。そこで、近くの三井銀行に、オヤジが代表になってね、ここら辺のバーがまとまって交渉しに行ったんだ。なかなかOKはでなかったんだけど、やっとの思いで両替商の認可が下りたんだ。今でも、ここはドルも使えるよ。お釣り? お釣りは円で渡すんだ」 さすがに今は、ドルで飲む客はいなくなった。

50周年の記念パーティーのチケットはすでに売り切れている。だが、この店にはいつ来ても、時の流れの凍結がある。窓から見える景色もずいぶんと変わった。昔は、フューチャリスティックな港みらいの超高層ビル群はなかった。今やビル群のライトが横浜の夜を照らす。ジュークには「ハーバーライト」という曲も入っている。

かつては長い貨物列車が頻繁に行き来していた近くの貨物線には、ほんのたまに、しかも短い列車しか走らなくなった。スターダストの周囲はすべて変わった。だが、このスターダストの中は何も変わらない。そして、想い出の曲が流れてカウンターで泣き崩れた女性が歌うシングル盤も、このジュークボックスにはいまだに入っている。四半世紀を超えて、その曲は時にスターダストの夜を彩る。あたかも人々をあの頃に引き戻すように。

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