8 Mile: The Movie

境界線。

「8マイル」とは、デトロイトに実在するストリートの名前。8マイルを境にその南側は、黒人街、北側は白人街に分かれる。つまり、8マイルは、白人と黒人を分断する境界線でもある。成功を夢見る黒人は、8マイルを超えようとする。そして、そのためには何をすべきか。デトロイト出身の白人ラッパー、エミネム主演の青春映画が『8マイル』だ。

デトロイトは車の街。別名モーター・タウン。その工場で働くラビット(エミネム)の夢はラッパーとしてメジャーのレコード会社と契約し、デビューすることだ。そして、そのために、地元で行われるラップのバトル大会に出場してチャンスをうかがう。

しかし、ラップは元々黒人の文化で、白人のラビットがいくら挑戦し、技がうまくても、なかなか認めてもらえない。それゆえの葛藤が、リアルな黒人社会の現状の中で描かれる。ライヴァル・グループとの対立。本当は実力がありながら、本番のバトルであがってしまって、うまくできなかったことを悩んだり、家に戻れば戻ったで、母親が男に捨てられて、泣き言を言う。彼自身もアレックス(ブリタニー・マーフィー)という女の子と恋に落ちるが、その恋も順調には進まない。そんな八方ふさがりの生活の中で、ラップのバトル大会への出場を拒絶するラビットだが、結局、自分が唯一頼れるものはそのラップだということに気がつき、ついにバトル大会へ出ることを決意する。

エミネムがもっと、はげしくワイルドで悪(わる)かと思ったが、意外とおとなしかったので、拍子抜けしてしまった。昔の音楽映画で言えば、『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』、『パープル・レイン』の路線の青春映画。ラビットがなぜラップの世界でバカにされるかは、黒人と白人の対立という視点の理解なしには、わからない。そのあたりの基礎知識を持って見れば、楽しめるのだろう。

ラビットの心模様の変化をもう少し深く描ければ、ストーリー自体に重みがでるのだろうが、なかなか難しいのかもしれない。

日本では一般受けはむずかしいと思う。そのかわり、ヒップホップ、ラップ好きにはぜひ、一度見て欲しいと感じた。果たして、主人公は8マイルを超えられるのか。

(2003年5月下旬、日比谷スカラ座1他全国290館にてロードショー公開)

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