Joe & George: Can Never Describe Their Music By Words

【言葉では表現不能なピアノ】

表現不能。

”It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing” とは、つまり、「スイングしなければ、意味はない」といったところだろうか。デュオライヴの二人での幕開けはだいたいこの曲のようだ。デューク・エリントンの作品。ステージの右と左にピアノを置き、ジョージ・デュークとジョー・サンプルが好きに自由にピアノを弾く。そして、二人のピアノともにスイング感はたっぷりだ。

ジョー・サンプルは、「アメリカの古い曲が大好きなんだ」と言う。自らあちこちに足を運び、古いレコーディングを探したりしている。彼には15歳年上の兄がいて、ピアノを弾いていた。さらに、音楽好きの父親の影響もあった。ジョーは父が55歳に誕生した子供だったらしい。きっと、孫のように可愛がったのだろう。その父は1920年代、まだ飛行機がない時代に、ルイジアナからカリフォルニアへ向かう長距離列車の食堂車のシェフだった。その当時列車での仕事は、花形だった。飛行機がないので、どこかに移動するのはもっぱら列車だった。しかも、1等車ともなれば、かなりの値段がしたので、金持ちばかりが乗っていた。ジョーによれば、「父親はひじょうにいいシェフだった。母親もね。だから、問題だった。(笑) (おいしいものばかりが作られるのでたくさん食べて太ってしまう、という意味)」という。

オープニングの「イット・ドント・ミーン・ア・シング」は、ジョーが生まれるはるか昔に書かれた作品。ジョーは1939年生まれだが、この曲は1929年ころにはできていた。なんと父親がよく歌っていて、覚えていたという。

ここ一週間で、どちらかがソロでやった曲をデュオでやったり、デュオでやっていた曲をソロでやったり、彼らの手にかかれば、なんでも自由自在だ。ひとりピアノでの自由度の高さは容易に想像がつくが、ふたりでも彼らにかかれば、何でも自由度いっぱいだ。モーションでは、「エイント・ミスベヘイヴィン」がジョーのソロだったが、今日は二人で演奏。また、それぞれのひとり弾きのところの曲もけっこう入れ替えている。

ジョーがステージで語る。「普通、ピアニストは決してピアニストと一緒に演奏はしないものなんだ。ピアニストは、サックス奏者、トランペット奏者、ギター奏者、トロンボーン奏者・・・ そういった連中と一緒にやるのであって、決してピアニストとはやらない。(笑) だが、私とジョージは、すこしそろそろそういう考え方を変えてもいいと思うようになった」 

それにしても、彼らのピアノの音は小さい。何か飲み物を飲んだり、食べたりするのも慎重にならざるをえない。しかし、小さくなればなるほど聴く側の集中は高まる。そして、集中が高まれば、聴き終えた時、どっと疲れる。もちろん心地よい疲れだ。たとえば、スタンディングで大音量のバンドを聴いた後の疲れと、違う種類の疲れだ。肉体的疲労というよりソウル的疲労か。

それにしても、彼らのピアノの音を言葉に置き換えることはできない。何百の単語を持ってしても、ジョーのタッチ、ジョージのフィーリングは表現できない。これは、この場に来て、実際に彼らの生演奏を見て、感じる以外理解はできない。

それにしても、彼らのピアノの息のあったことといったらない。瞬時に、主旋律を弾いていたほうが、リズム隊に変わり、さっきまでリズムを弾いていたほうが、こんどはメロディーを弾いていたりする。

ジョーのソロパートで、「スペルバウンド」と「ザ・ソング・リヴズ・オン」の2曲を終えた後、またジョーが話し出した。「私が生まれ育ったヒューストンは、牛の街だ。昔も牛の街だったが、今も変わらないな。(笑) 要はまったく洗練された街ではないということだ。ヒューストンには、ほとんど何にもないんだ。教会以外はね。あるのは、教会、教会、教会、教会・・・。それと、ブルーズを聞かせるブルーズバーはある。あちこちに、ブルーズバー、ブルーズバー、ブルーズバー・・・。(笑) ピアニストは同じで、日曜には教会で神様のためにピアノを弾き、金曜土曜にはその同じピアニストが・・・(それ以上、言うな、とジョージがストップをかけた=(笑)) 言ってみれば、ブラックミュージックのすべては、チャーチ(教会)とブルーズなんだ。そこから生まれるストンプとシャウト、これだ。リトル・リチャードは教会からでてきている。さあて、ジョージ、世俗的な曲はできるかな」 こう言って二人は、ごきげんなのりのファンキーな曲を演奏し始めた。

左手で主にリズムパターンを繰り返し、右手でメロディーを弾く。ものすごくのりがよく、観客からも手拍子がかかった。この曲のタイトルがわからなかったので、ジョージとジョーにあとで尋ねた。「あのリトル・リチャードなんとかって言ってプレイした曲のタイトルはなんですか」 「ああ、あれか、タイトルないよ。適当にやったジャムセッションだから!」 「えええっ、これ、ジャム・セッション? じゃあ、リハもやってないの?」 すごいなあ。けっこう、起承転結あって、まとまっていたように思えた。ジョーが言った。「『ジョーズ・チャーチ』でいいよ(笑)、『ジョーズ・ブルーズ』でも、どっちでも」 ジョージ「おお、それで行こう。『ジョーズ・チャーチ』」 インストゥルメンタル曲のタイトルなんて、こんな風に決まるのだろう。(笑)

また、アンコールで演奏される「ストリート・ライフ」も日に日に彩りを変える。それは、まるで虹のように日によって違う色彩を見せてくれる。ジョージとジョーのライヴパフォーマンスは、雨粒の如く、雪の如く、雲の如く、そして、虹の如く、決して同じものはない。

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Setlist Second Set (November 25, 2005)

(註、Joe&George はジョーとジョージのデュオ。それぞれのソロは、ひとりだけで演奏。曲目後は、オリジナル作曲者とその作品が登録された年号。ヒット曲の場合は、ヒットした年)

show started 21:33

=Joe & George=

01. It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing (Duke Ellington: 1932, From “Sophisticated Ladies”)
02. Ain’t Misbehavin’ (Thomas Fats Waller: 1929)

=George Solo=

03. Honeysuckle Rose (Thomas Fats Waller: 1929)
04. So What  (Miles Davis: 1961)
 
=Joe & George=

05. Over The Rainbow~Christmas Song
06. Cherokee (Ray Noble: 1939)

=Joe Solo=

07. Spellbound (Joe Sample “Spellbound”-1989)
08. The Song Lives On (Joe Sample “Song Lives On”- 2002)

=Joe & George=

09. Joe’s Church (Jam Session)

=George Solo=

10. Shine On (George Duke: 1982)
11. Sweet Baby (George Duke: 1981)

=Joe Solo=

12. It’s A Sin To Tell A Lie (Billy Mayhew: 1933, Joe Sample, “Song Lives On”-2002, “Soul Shadows”-2004 )

=Joe & George=

13. Love For Sale (Cole Porter: 1930)
Enc. Street Life (Crusaders: 1979)

show ended 22:52

(2005年11月25日金曜、東京ブルーノート=ジョー・サンプル、ジョージ・デューク・ピアノ・デュオ・ライヴ)

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