Groove Hand, Poet Hand: Magic Hand Of Joe Sample (Part 1)

【ピアノの魔術師、ジョー・サンプル完全ソロライヴ】

旅先案内人。

なんとイマジネーションを広げてくれるパフォーマーだろうか。たったひとりでステージに置かれたグランドピアノに向かい、たった2本の腕と10本の指で88の鍵盤を操り、200人ほどの聴衆の心をわしづかみにする。そのピアノの音色に身を委ねれば、世界中のどこにでも、いつの時代にでも瞬時に連れて行ってくれる。それはあたかも、このピアニストがすばらしき旅先案内人の如くだ。

ピアノの魔術師、ジョー・サンプルの完全なソロ・コンサート。2年程前にやはりここモーション・ブルーでソロ・ライヴを見たが、それ以来。バンドではなく、完全なソロというのは、緊張感もあり、しかも、自由度が圧倒的に高いために、ひじょうにおもしろい。アーティストの調子によって、出来不出来が如実に表れたり、セットリストが決まっていない分、思いもかけない曲が弾かれたりすることもある。まさにこの日のこの瞬間しか存在しない真の一期一会だ。85分間のパフォーマンスは、この空間に来た人だけの経験だ。そして、その経験をどのように評価するか、どれほど価値あるものと思えるかは、参加してその演奏を聴いた本人次第ということになる。

1曲終えるとタオルで額の汗を拭い、力強く、そして、さらに強烈なタッチで鍵盤を打つかと思えば、ぐっと引いてゆるいタッチで触れる。こんな緩急を付けられるピアニストを他に知らない。

ミスター・サンプルは何曲かに解説をつけて、プレイする。例えばこうだ。「ジョージ・ガーシュインが7歳の時、親に連れられてニューヨークのハーレムに行ってそこでプレイしているピアニストたちを見ていた。そして、彼はその(黒人の)ピアニストたちを見て、曲を書こうと思った。彼らには、リズム(感)があったのだ。自分もそういうリズムが欲しいと思った。そして、彼はそのものずばりの曲を書いたのだ。『アイヴ・ガット・リズム』」

「ジョージ・ガーシュインが7歳頃というと、ちょうど第一次世界大戦の頃だろう。1912年ころかな、ハーレムではいわゆる『ストライド・ピアノ』という奏法が大流行だった。その達人がジェームス・T・ジョンソンという人物だ。では、みなさんを1918年のハーレムにお連れすることにしよう」 こうして演奏されたのが、「キャロライナ・シャウト」。

「その昔、ピアニストがもっとも好きな音楽はブルーズだった。酒場で酒を飲めないことがあった。隠れて飲まなければならなかった。そんな酒場ではピアニストは、ブルーズ・ピアノを静かに弾かなければならなかった。おまわりがやってくるからね。ピアノも静かに、話もひそひそ話でね。だから、今夜私もピアノをそっと弾くことにする。『アフター・アワーズ』という曲です」

それは、ジョー・サンプル教授のピアノの歴史のレッスン。時間軸と地域の軸が縦横に行き来して、我々を未知の世界にいざなう。

セカンドセットでひときわ驚いたのは、ジョーとレイラがレコーディングした傑作『ソング・リヴズ・オン』からの「ホエン・ユア・ライフ・ワズ・ロウ」だった。これはオリジナルであり、レイラの名唱で決定的になったヴォーカルソングだ。他の誰もが知ってるスタンダードとはちょっと意味が違う。あれだけ強烈な歌の印象を持っていた曲だが、ジョーのたったひとりのソロピアノで、この曲が持つ世界が創られた。

もうひとつは、ファーストでもやったジョーの18番「メロディーズ・オブ・ラヴ」。最初の2-3の音でそれとわかったが、ファーストとはまったく違ったアレンジで、まるで別の曲のようだった。ここまで違う「メロディーズ・オブ・ラヴ」をあっさり弾けてしまうなんて。おそれいった。

それにしても、アップテンポの時のグルーヴ感といったらない。そして、バラードの時のメロディアスな魅力。ジョー・サンプルの左手はグルーヴを生む手。そして、右手は詩を語る手。グルーヴ・ハンド、ポエット・ハンド、それらはマジック・ハンド。

(ジョー・サンプルについては続きます)

(ジョー・サンプルは、日曜=11月20日=から一週間、ジョージ・デュークとともにピアノ・デュオ・ライヴを東京ブルーノートで行います)

Setlist (2nd)

show started 21:35

01. Paper Moon
02. Sweet Lorraine
03. Spellbound
04. I Got Rhythm
05. Embraceable You
06. Carolina Shout
07. All God’s Children
08. When Your Life Is Low
09. Shreveport Stomp
10. After Hours
11. Caravan
12. It’s A Sin To Tell A Lie
13. Melodies Of Love
14. How Ya Gonna Keep ‘Em Down On The Farm? (Theme Of 369)
Enc.1. Ain’t Misbehavin’
Enc.2. Jitterbug Waltz
show ended 23.00

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ブルーノートウェッブ
http://www.bluenote.co.jp/art/20051120.html

(2005年11月18日金曜、横浜モーションブルー=ジョー・サンプル・ライヴ)

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