Knack For Writing An Account Of A Person's Travels

コツ。

先日の沢木さんのトークショウがあるというので、青山の青山ブックセンターに行ってみた。スイッチの元編集長の新井さんとの二人で約2時間のトークショウ。会場には120を超える人が集まっていました。

雑誌スイッチの成り立ち、そのスイッチ編集者である新井さんと沢木さんとの接点の話などなかなか興味深かったです。沢木さんが月刊プレイボーイが創刊された時、自分も何か書きたかったという話、かつて山口瞳氏から聞いた紀行文を書く時のコツの話、人生の回り道の話などなど、自分が書く時唯一心がけているのはリーダブル(読みやすく)ということ、今までの仕事で手を抜いた仕事はない、ときっぱり言い切るところなど、得るものは多かったです。

その中で、これはと思ったのが紀行文のコツの話です。山口氏の言ったコツとは、1、旅が始まるまでをできるだけ長く書け。2、旅にはパートナーがいるほうがいい。3、その場所に行ったらできるだけ同じ所(店)に何度も行け。というものでした。これはなるほど、と思いました。いろいろなことに応用できますね。

例えばーーー。ライヴ評を書く時。1、ライヴが始まるまで、そこに行くまでをできるだけ長く書く。ある程度のキャリアのあるアーティストだったら、何でも書けますね。そのアーティストをいつ知り、どのように好きになったか、よってライヴに行くことはどういう意味を持つとか。2、ライヴは誰かと一緒に行くといい。そのパートナーがどう思ったか、どう反応したかなんかを書けば、これはこれで広がる。3、その同じライヴを何度も見る。そりゃあ、何度も見れば、得る情報量は増える。そうやって見たライヴ評は、かなり長くなるかもしれませんが、相当おもしろい物になる可能性はあります。ちょっと今度試してみるかな。
あ、でも、僕のジェームスブラウンのライヴ評とかちょっとその雰囲気あるかな。https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/story/james199812.html 前段があまりなく、パートナーはいません。ただし登場人物はいますが。でも、これをやっちゃうとライヴ評としては若干へヴィーになるかもしれません。

最後に質疑応答がありました。「年齢とともに感性が目減りしていくと思いますが、それを目減りさせないために、あるいは感性を磨いていくためにどうすればいいのでしょうか」という質問に、沢木さんはこう答えました。「感性は磨耗するものです。最初に行った島のことなど8日くらいしかいかないのに何百枚も書けた。でも、今は同じ所に行ったら5枚も書けないでしょう。それは(そのことを)知ったから新鮮ではなくなったためです。それは(感性の目減りのようなものは)物を知ることによって宿命づけられているんだと思いますね」 

これも共感します。いい音楽やライヴをたくさん見れば見るほど、感激することは少なくなります。それは多くのものを知ることによってそうなってしまうんですね。しばらく前にメジャーリーグと高校野球の話に例えたことがありましたが、それと同じですね。高校野球しか知らなければ、それはそれで感動するかもしれないが、もっと上のレベルのものを知ってしまうとなかなか感動はできなくなります。

ですからこういういい方はできるかもしれません。「知ることによって感性が磨耗する」のではなく、「知ることによって感性のレヴェルがアップする、感性が磨かれる」ということです。僕なども時に知らなければ良かったなどと思うことがないことはありませんが、でもそれでもなお、知らないことで得るものよりも知ることによって得るものの方がはるかに価値があるようにつくづく思います。結局知識欲求みたいなものも、人間の性(さが)なんですかねえ。

(2003年12月26日金=青山ブックセンター本店=沢木耕太郎、新井敏記トークショウ)

(註)An Account Of A Person’s Travels=紀行文

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