2010年11月03日(水) 00時01分00秒 soulsearchinの投稿

◆吉野弘の「祝婚歌」~コピーレフトで転載

テーマ:エッセイ
◆吉野弘の「祝婚歌」~コピーレフトで転載

【A Song Of Toast To Wedding】

祝婚歌。

しばらく前にツイッターで誰かがRTしたのを見かけて、なかなかいいなあ、と思っていたら、なんと鳩山前首相がここからの一文を紹介。一挙に、ブームになった感がある詩作。

そこで、この詩「祝婚歌」と作者・吉野弘さんについていろいろ調べてみた。吉野弘さんは、1926年(大正15年)1月16日生まれの詩人。彼が実の姪御さんの結婚式に出席できないので、書き送った詩がこの「祝婚歌」だそうだ。その後、彼の詩集に編纂され、静かな人気となり、もう10年以上、結婚式などでよく読まれているそうだ。とても示唆にとんだすばらしい詩なので、このブログでも紹介してみたい。

で、著作権についてなのだが、吉野さんは、これは「民謡のものなので(パブリック・ドメインみたいなもの)ご自由にどうぞ」という著作権についてひじょうに柔軟な姿勢をお持ちの方なので、転載させていただくことにした。(詩のあとに著作権についての意見を紹介してあります)


「祝婚歌」(吉野弘・作)

二人が睦まじくいるためには

愚かでいるほうがいい

立派過ぎないほうがいい

立派過ぎることは

長持ちしないことだと

気づいているほうがいい


完璧をめざさないほうがいい

完璧なんて不自然なことだと

うそぶいているほうがいい


二人のうち どちらかが

ふざけているほうがいい

ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても

非難できる資格が自分にあったかどうか

あとで疑わしくなるほうがいい


正しいことを言うときは

少しひかえめにするほうがいい

正しいことを言うときは

相手を傷つけやすいものだと

気づいているほうがいい


立派でありたいとか

正しくありたいとかいう

無理な緊張には色目を使わず

ゆったりゆたかに

光を浴びているほうがいい


健康で風に吹かれながら

生きていることのなつかしさに

ふと胸が熱くなる

そんな日があってもいい

そしてなぜ 胸が熱くなるのか

黙っていてもふたりには

わかるのであってほしい

(吉野弘詩集 収録作品)

+++++

僕がこの中で一番気に入ったのが、「正しいことを言うときは少しひかえめにするほうがいい。正しいことを言うときは相手を傷つけやすいものだと気づいているほうがいい」というライン。本当にそうだなあ、と思う。

+++++

ところで、前述の著作権について、吉野さんは自作詩について、『人生の達人たちに学ぶ~渡る世間の裏話』(早坂茂三編・著)の中で、次のように述べている。

早坂が、「吉野さんは『祝婚歌』を『民謡みたいなものだ』とおっしゃっているように聞いたんですけど、それはどういう意味ですか」と問うと、吉野は次のように答える。

「民謡というのは、作詞者とか、作曲者がわからなくとも、歌が面白ければ歌ってくれるわけです。だから、私の作者の名前がなくとも、作品を喜んでくれるという意味で、私は知らない間に民謡を一つ書いちゃったなと、そういう感覚なんです」

「いいお話ですね。『祝婚歌』は結婚式場とか、いろんなところからパンフレットに使いたいとか、随分、言って来るでしょう。 ただ、版権や著作権がどうなっているのか、そういうときは何とお答えになるんですか」(早坂)

「そのときに民謡の説を持ち出すわけです。 民謡というのは、著作権料がいりませんよ。 作者が不明ですからね。こうやって聞いてくださる方は、非常に良心的に聞いてくださるわけですね。だから,そういう著作権料というのは心配はまったく要りませんから...」(吉野)

~『人生の達人たちに学ぶ~渡る世間の裏話』早坂茂三編・著(東洋経済新報社刊)より

+++++

まさに、これこそ、コピーレフトの精神。コピーレフトについては何度かご紹介しているが、改めて、リンクを貼っておきます。

■過去、著作権関連記事。(下記5本は、いずれも「著作権」という考え方に対しての興味深い観察です)

2003/09/20 (Sat)
Lyrics Belongs To Whom It Needs, Not To Whom Wrote It
「詩は誰のものか」、映画『イル・ポスティーノ』における見事な論理
http://www.soulsearchin.com//entertainment/music/essay/diary20030920.html

2003/09/21 (Sun)
How To Give Him/Her A Standing Ovation?
クリエイティヴに対する拍手の仕方のお手本
http://www.soulsearchin.com//entertainment/music/essay/diary20030921.html

2003/02/01 (Sat)
Stop! In The Name Of Law
法律の元にコピーは止めて
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200302/diary20030201.html

March 18, 2007
What's The Destiny For Mori Shinichi's "Mother"(Part 1)
http://blog.soulsearchin.com/archives/2007_03_18.html

March 19, 2007
What's The Destiny For Mori Shinichi's "Mother" (Part 2)
【森進一がなすべきこと】
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200703/2007_03_19.html

■吉野弘『贈るうた』(1992年)(これは再発)

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ESSAY>POET>Yoshino, Hiroshi

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