NO.742
2004/08/14 (Sat)
Kishita Koshi Live: The Live Performance I Really Desired To See
第一回。

「これから始まる出来事のひとつひとつ、自分にふりかかるだろう。けれども、君と歩むから、けして失望はさせないよ」と彼は歌った。

僕は失望しなかった。

本当は11日のライヴに行きたかったのだが、仕事の関係でどうしてもいけず、やっとの思いで13日、ライヴを見ることができた。開場6時半、開演7時半だというのに、下北沢近辺には6時すぎには到着し、ライヴハウスの前にできた列に並んだ。こんなにひとりのライヴをわくわくして待ったのは一体何年ぶりだろう。年に100本ライヴを見るとしても、数年に一度あるかないかだろうな。今夜の主人公は1989年5月8日生まれ、現在15歳の木下航志(きした・こうし)くん、リトル・コーシだ。

本日記でもまだ名前も知らぬ男の子との出会いを書き、http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200312/diary20031229-1.html それが、テレビのドキュメンタリーの主人公だったことを知った。http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200404/diary20040430.html そして、ついにこの日、リトル・コーシの生のライヴを見ることができる。

しかしなかなか始まらない。前座二組が終わり、本人が登場したのは8時46分。2時間以上待った。

スタッフの人に手を引かれ、キーボードの前に座り、ヘッドセットをつけてもらう。スタッフの彼はさしずめ、スティーヴィーで言えばキース・ジョン役か。キーボード一本で赤い鳥の72年のヒット「翼をください」を歌った。テレビで聴いたあの声だ。確かに、彼の声は特徴がある。ひじょうに耳に残る。まず、この声だけで、合格点である。そして4曲目にCDにもなっている「アメイジング・グレイス」がきた! 彼の声はすでに声変わりを終っている。その声に聞き入ってしまう。

そして、バンドメンバー(ドラムス・後藤敏昭とベース・名村武)が参加しトリオになる。ちょっと話があり始まった曲が、が〜〜ん、「ヴァルデス・イン・ザ・カントリー」ときた。テレビでは「スラム」をやっていた。「ヴァルデス・・・」はインスト、ダニー・ハザウェイの作品。アルバムは『エクステンション・オブ・ア・マン(愛と自由を求めて)』。リトル・コーシは、ウォーリッツァーをプレイしている。

一曲(「ひまわり」)をはさんで、リトル・コーシはこう話した。「次はレイ・チャールズの曲ですが、彼は僕が殺しました。(笑) 彼、最近お亡くなりになってね・・・」 このあたりの話っぷりが、人を食ってておもしろい。ただし、この日彼の声が小さく、聞きづらかった。歌われた「ジョージア・オン・マイ・マインド」。この節回しねえ、驚くね。もちろん、コピーだと言えば、コピーなんだが、それが立派にリトル・コーシのものとして成り立っている。やはり音楽の吸収力の違いだろう。すぐにコピーから自分のものにしてしまう才能がある。リトル・コーシの声質は、スティーヴィーよりもむしろブラザー・レイのほうが近いかもしれない。しかし、ピアノ・タッチはかなりスティーヴィーっぽい。彼がフリーなピアノを弾いているとき、なんどスティーヴィーの曲が始まるのではないか、と思ったことか。スティーヴィーのピアノにブラザー・レイの声質ときたら、鬼に金棒である。

そして、そんなことを思っているとスティーヴィーの「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」がでてきた。レイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハザウェイそして、リトル・コーシという流れがある。文字にするだけで恐るべき並びである。続いて歌われたのがCDにもなっている彼のオリジナル曲「フェリス」。これはCDより、ライヴのほうがよりラテン調になっていて、よかった。

そして、続いて紹介されたのが、ビートルズの「イエスタデイ」。と、と、ところが、これが、本日記でも何度も話題になっているついこの間でたばかりのダニー・ハザウェイの新作『ディーズ・ソングス・フォー・ユー、ライヴ』収録のヴァージョンの「イエスタデイ」なのだ。たしかに、ダニーをそっくりそのままなぞる。となりのソウルブラザーUが「ダニーですね。知らない人が聞いたら、このアレンジはびっくりしちゃいますよね」。「ほんとだねえ、じゃあ、次は『ユーヴ・ガット・ア・フレンド』かな」とぼく。そして、「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」でした。(笑) これはテレビで見たほうがよかった。

「昨日、かわいい子にこの帽子をもらいまして・・・」とリトル・コーシが言う。こんなセリフはスティーヴィーばりだ。かわいい子を、君はどうやって知る? (笑) オプラ・ウィンフリーがスティーヴィーに尋ねた質問がよみがえった。「スティーヴィー、あなたは、どうやってきれいな女性がわかるの?」 

一応、これが最後でアンコールの拍手にうながされ、再登場。「大ぽかをやりまして、何曲か飛ばしてしまいました。(笑) そこで、アンコールを増量でやります(笑)。次の曲は、僕より年配の人に送ります」 すると、「みんな年配だよ」の声も。(笑) 確かに15歳より観客はみな上だっただろう。増量で歌われたのは、美空ひばりメドレーだった。「愛燦燦(あい・さんさん)」「川の流れのように」。

ライヴの完成度などはまだまだこれからだと思うが、ライヴを見て改めて確信したのは、彼の音楽の吸収度、理解度は相当ずば抜けている、ということ。そして、声が素晴らしい。歌ももっとヴォイストレーニングをして鍛えれば、どんどんよくなるはずだ。完成度なんていう言葉を今使ったが、まだ相手は15歳である。普通は学芸会のレヴェルだ。今後、どういう方向性に行くべきなのだろうか。彼はどこへ行くのだろう。周囲の誰もがその方向性を模索すると思う。慌てず、試行錯誤しつつ、いい道を選んでもらいたい。山積みの課題もひとつひとつクリアしていって欲しい。まちがいなくダイアモンドの原石だ。

しかし、彼の声に聞き入っている時に、僕の中には彼が何歳かなんてことは、これっぽちも思い浮かばないな。思い浮かぶことといえば、彼の声の中に、スティーヴィーがいて、レイ・チャールズがいて、ダニーもいるということだけだ。

「季節が移ると心の色、ひとつひとつが静かに変わっていくだろう。けれども変わらない何かがあると信じているんだよ。ここまで来たよと笑顔で迎えて欲しい」(アンコールで歌った「未完成」の一曲の一部)

リトル・コーシはきっと10年後も変わっていないだろうと僕は信じる。しかし、誰もが彼を知るまでになるだろう。そこまで行ったとき、もちろん人々は彼を笑顔で迎える。その時、彼はもはやリトル・コーシではなく、ミスター・キシタ・コーシになっている。

ライヴが終った後、ちょっとだけ楽屋をのぞいた。プロデューサーの永島氏に紹介されて握手した。「ダニー・ハザウェイは好きなの?」と尋ねた。「はい、好きですねえ」 「何かスポーツはしている?」 「いや、スポーツはしないですねえ」 「でも、これから将来、1時間だけじゃなくて、2時間以上のライヴやるには、体力つけないと」 「そうですねえ」 彼は首を軽く振りながら、ずっとにこにこしている。 彼の握手の手は柔らかく、ちょっとひんやりとしていた。これから彼のライヴを僕は何回見に行くことになるのだろう。今日から数えることにしよう。今日は記念すべきその第一回。

Setlist

show started 20:46

1. 翼をください (赤い鳥)
2. 竹田の子守唄 (トラディショナル)
3. 恋しくて (オリジナル)
4. アメイジング・グレイス (トラディショナル)

5. ヴァルデス・イン・ザ・カントリー (ダニー・ハザウェイ)
6. ひまわり (福山雅治)
7. ジョージア・オン・マイ・マインド (レイ・チャールズ)
8.  ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ (スティーヴィー・ワンダー)
9. フェリス (オリジナル)
10. イエスタデイ (ビートルズ、ダニー・ハザウェイ・ヴァージョン)
11. ユーブ・ガット・ア・フレンド (キャロル・キング、ダニー・ハザウェイ・ヴァージョン)

アンコール1. 川の流れのように (美空ひばり)
2. 愛燦燦 (美空ひばり)
3. (新曲) (オリジナル)

show ended 22:00

(2004年8月13日金、下北沢440[フォーフォーティ]=木下航志ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Kishita, Kohshi



Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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