NO.291
2003/06/17 (Tue)
Bittersweet Voice That Turned Blue Note A Desert
砂漠。

オーダーしようとしたドリンクは、ジンジャーエール。スタッフが尋ねる。「ドライにしましょうか、ソフトにしましょうか」 辛いほう、つまりドライを注文する。

13分ほどバンドがウォーミングアップの演奏をしてから、いよいよ今夜のスター、ナタリーがスパンコール系のキラキラ光るパンツでステージ中央に登場。スポットライトに照らされる彼女は相変わらずの存在感を輝かせる。

前半6曲は最新作 『アスク・ア・ウーマン・フー・ノーズ』 からの作品(「テル・ミー・オール・アバウト・イット」「アイ・ハヴント・ガット・エニシング・ベター・トゥ・ドゥ」)、「トゥ・フォー・ザ・ブルーズ」「ルート66」「アイム・ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト」「ライク・ア・ラヴァー」などをゆったりとしたペースでこなす。歌う曲のためもあってか、まるで砂漠のオアシス、ラスヴェガスのホテルのショウのようだ。

ひときわ拍手を得たのが、彼女が「今日ここに来たすべての恋人たちのために歌います」と言って歌った「トゥ・ヤング」。もちろん、父の大ヒットでもある。曲が終わると前の外人6人組が手が壊れるのではないかと心配になるほど思い切り手を叩いている。この曲の人気を再確認。そして、ステージ両側のテレビモニターがモノクロの映像を映し出した。「最初の歌詞で、みなさん、次の曲がおわかりになると思います」と紹介して、イントロが流れ出す。流れ出る声は父ナット・キング・コール。歌いだしの単語は、「アンフォーゲッタブル・・・」 昨年は声だけだったが、今年は映像付き。以前から何度もこの演出をしていたが、何度見てもこのシンクロはすばらしい。そしてナタリーのこれを歌うまでの道のりを思うと、どうしても感動してしまう。

時折ナタリーが画面の父を見る。曲のエンディングで、ナタリーが父ナットと同じように右手を横に伸ばしおじぎをするしぐさを見せる。それは、モニターに映し出されるモノクロのナットの生き写しさながらだ。おじぎもシンクロしているのだ。もちろん「トゥ・ヤング」よりもさらに大きく、もっと長い拍手。まさにナタリーのキャリア・ソングと呼ぶにふさわしいパフォーマンスだ。

そして、「ペーパームーン」で一度舞台を降りた後、アンコールで再度登場。バンド指揮者とちょっと打ち合わせをし「コーリング・ユーでもやろうかしら」とつぶやき、「この曲は80年代に映画『バグダッドカフェ』(88年)でアカデミー賞にノミネートされた作品です」と説明して歌いだしたのが、最新作に収録されている「コーリング・ユー」。

「ラスヴェガスからあてもなく続く砂漠の道。今までいたところよりは少しはましな所を求めて。壊れかけたコーヒーマシンしかない小さなカフェで気が狂ったように、あなたの名を呼ぶ。聞こえないの?(コーラス) 暑く乾いた風が私を包む。赤ん坊が泣き、私は寝付けない。でも私たちはお互い変化していることに気づいている・・・」(コーリング・ユー)

ナタリーのヴァージョンも新鮮で、その声がブルーノートの空気を一瞬乾いた砂漠のようにしてみせた。そして、最後は彼女の出世作「ディス・ウィル・ビー」(1975年)。またまた万雷の拍手が空間を満たす。飲むのも忘れ残っていたドライのジンジャーエールを飲み干した。砂漠のように乾いていた喉がオアシスのように潤った。

出口のところで、小さな袋を渡された。リシャールのチョコレートだった。さて、チョコレートとナタリーの共通点? 時に甘く、時にほろ苦いところか。


【2003年6月16日月曜・セカンド・ステージ 東京ブルーノート】

(ナタリー・コール、ブルーノート6月16日から6月21日まで)


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「ソウルサーチン」第7章・ナタリー・コール「二度のグラミーのはざまで」
http://www.soulsearchin.com/soulsearchin/7.html


ナタリー・コール・ライヴ評 『心の変遷、ここに』
【2002年5月28日火曜・セカンド・ステージ・東京ブルーノート】

http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/natalie20020528.html


ENT>MUSIC>LIVE>COLE, NATALIE>2003.6.16

Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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