NO.171
2003/02/28 (Fri)
Living Jukebox or Human Jukebox
流し。

「さあさ、お客さんのリクエスト、なんでも弾きますよ。何が聞きたいですか。言って、言って」 という感じで、流しの人は歌を歌います。「流し」って、英語でなんて言うんでしょうか。外国人に説明するとき、どう言えばいいのかな。

「街の酒場などで、ギター一本で客のリクエストに応じ、その場で一曲歌い、お金をもらうエンタテイナー。日本では、昭和20年代から50年代初期にかけて多くの流しがいた。そうした流しは、たいがい演歌{日本人の魂の音楽}というジャンルの音楽を歌い、ラッキーな者は、流しからレコードデビューに至った例もある。『流し』とは、単純に街を流して歩いていたことから、きている」(吉岡音楽Imidas)

よく考えてみると、流しってすごい文化です。アメリカではピアノバーみたいなところで、ピアニストがリクエストに応じてなんでも歌ったりしますね。日本のように飲み屋から飲み屋へ渡り歩くということはないでしょうね。だいたい車社会だし。

六本木のソウルバー「ブレイブ・バー」で毎月最終木曜日に行われている島田奈央子 http://www.flavor.fm/flavor/naoko_net/ さんのDJのゲストでギターを弾いているのが、杉本篤彦 http://www.sugimoto-a.com/ さんです。

フリースタイルで、その場の雰囲気でギターを自由自在に爪弾く杉本さんが、いきなりスローの曲を弾き始めました。「う〜〜ん、知ってる。なんだっけ」と感じた瞬間わかりました。ハロルド・メルヴィン&ブルーノーツの「イフ・ユー・ドント・ノウ・ミー・バイ・ナウ(邦題、二人の絆)」! これをギター一本でやります。ジョージ・ベンソン風、ウエス・モンゴメリー風。そして、時にデイヴィッド・T・ウォーカー風。

メドレーで続いた曲は、「ワオ! すごいぜ! こいつは!」という意味の「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」!。まさに、ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウです。杉本さんは、なんとチッキンシャックのヴァージョンで初めて知ったそうです。もちろん、それからすぐにスタイリスティックスのものも聞いたわけです。

元ネヴィル・ブラザースのキーボード・メンバーだったSaya( http://www.saya.com )は、横で「私はこれ、アーロン・ネヴィルのヴァージョンで死ぬほど、聞いたし、プレイもした。ものすごいいい曲よね〜〜」とつぶやきます。さらにその隣で、ボクシングとソウルとサッカーをこよなく愛すウッチーは、「元々はスタイリスティックスで、プリンスもやってるよ」と解説を付け加えます。

そして、続いてでてきたのは、じゃ〜〜〜ん、「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」。しかも、キャロル・キング、ジェームス・テイラー・ヴァージョンではありません。ダニー・ハザウエイ・ヴァージョンです。「く、く、くろい・・・」 みんなサビのところは、ダニーのライヴと同じくらいの大合唱になってしまいました。(正確には歌っていたのは3人だけくらいなので、ほんとは小合唱でしたが。少し、大げさに言ってしまいました)

こうなると、次の曲への期待が高まります。今度は打って変わってのブルーズ・ナンバー。なんだ、これは、と思ったら、スパイク・リーの映画『モー・ベター・ブルーズ』からタイトル曲。う〜〜ん、渋い。

そして、一転今度は、ずいぶんとポップな曲調へ。みんな知っている曲なのに、ギター一本で演奏されるので、瞬間に曲名がでてこない。「ああ、これこれ、知ってる。なんだっけ」っていう感じ。「あああ〜〜、これこれ、ベイビーフェイスの〜〜。あ、ボーイズ・トゥ・メンの曲だ。『アイル・メイク・ラヴ・トゥ・ユー』」 ポップ、ソウル、ブルーズ、なんでもござれの杉本さんです。そして、しめは、ブルーズの名曲「ストーミー・マンデイ」。いやあ、拍手!

ギター一本で、これだけソウル・ヒットをやってもらえると、うれしいですね。まさに、ソウル流し、って感じでした。なんか、「ソウル流し」ってタイトルでアルバム、作れませんか。ねえ。

そして、一息ついた後、SayaのCDから「コルコヴァード」をかけ、それにあわせてギターを弾くという試みをしてみました。これはなかなかむずかしそう。

さらに、「ジャズのスローナンバーを」と言って「アイ・リメンバー・クリフォード」を、何かリクエストはと言われたので、ダニー・ハザウエイかデイヴィッド・T・ウォーカー・ヴァージョンの「ホワッツ・ゴーイング・オン」をお願いしました。彼は、バーナード・パーディーのドラムだけのCDにあわせて、「ホワッツ・ゴーイング・オン」を見事に弾ききりました。う〜〜む、すごい。

ジャズ、ソウル、ブルーズ、ボサノヴァ、ポップ。彼は何でも弾きます。ソウル流し、いいコンセプトですよねえ。そして、流しの英語は思いつかなかったのですが、表題のような単語を思いつきました。生きるジュークボックス、もしくは、人間ジュークボックス。
あるいは、「歩く辞書」=「Walking Dictionary」という表現があるように、Walking Jukeboxとも言えるかもしれません。最近は、ヒューマン・ビートボックスという言葉が市民権を得ているので、ヒューマン・ジュークボックスなんていうのも、キャッチーでいいかもしれません。

でも、垂れ幕は、縦書き、しかも、いかにも、濡れた感じの日本語・筆書きフォントで「ソウル流し」ってしたいところです。
Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
|Return|