NO.975
2005/03/26 (Sat)
Kaki "Oyster" King; So Charming Lady Said Welcome To My Room
牡蠣王。

ブルーノートの休憩時間などに盛んに流されていたプロモーション・ヴィデオ・クリップによってその存在を知った若手女性ギタリスト、カーキ・キング。なんとか一度生の彼女を見てみたいと思っていた。ブルーノートが一日だけ、しかも日曜だったので、はるばる横浜まで出向いた。

ヴィデオでは随分とロック風な印象を出していたが、ステージに登場したカーキは、ジーンズにTシャツというおそろしく素朴ないでたちで、そこらへんにいる観光客さながらだった。しかも眼鏡をかけて髪の毛をさっとまとめている彼女は、身長も150センチほどの小柄な女性。ヴィデオではもっと大柄な女性かと思ったが、実物を見てその差にびっくりした。ちょっと見、眼鏡をかけたシンガー・ソングライター、リサ・ローブ風だ。「ええ〜、この彼女があんな激しいギターを弾くの」と不思議に思えた。はっきり言って、ヴィデオの彼女より本物の彼女のほうが百倍チャーミングで可愛い。なんであんなイメージのヴィデオを作ったんだろう。

「みなさん、初めまして。私の部屋へようこそ」 いきなり、発音のいい日本語で挨拶。この日はレンガ街のインテリアショップとのタイアップがあり、おしゃれなソファや家具がステージを飾っていた。しかし、オンステージは中央に彼女、カーキ・キングだけ。その両側に計3本のギターが立てかけられている。

観客側から見て向かって右の黒いギターを取り出し、チューニングしながら、一曲目をプレイ。ヴィデオどおりのチョッパー風、はじきながらの演奏を見せる。一体いくつくらいなのか、24〜5歳か、などと思いつつ、彼女の自由な演奏に見入った。それにしても、なかなかすごい。かつて見たチャーリー・ハンター、タック&パティーのタック・アンドレスのギターを思い出させる。なんと言っても、タッピングというのか、ギターのボディーを合間合間に叩いてリズムをとるやり方がいい。これで、ぐっとグルーヴ感がでる。

一曲終ると、マイクを手元に寄せ、一言「サンキュー」。そのためだけにあるようなマイクだ。「カキは食べますか? 私、食べます。おいしい。私はカーキ、私もおいしい。I don't know...」 ほとんどしゃべらない彼女のワンポイント・ギャグだ。そんな彼女のTシャツの胸には、「オイスター、カーキ、ドープ」と書かれている。牡蠣〜カーキ・キングだ。

さて、これはどうしても彼女とちょっと話をしてみたいと思う。いくつもの疑問が浮かんだ。大体この奏法はどのように生み出したのか。一曲ごとにチューニングをしていたが、彼女には絶対音感はあるのか。やけに日本語が上手だが、どうして。誕生日、いつ? 

というわけで、楽屋に行きしばし歓談。「カキが牡蠣(オイスター)ってことは知ってるんですね」 「もちろん、ほら」と言ってTシャツの文字を見せてくれる。ニューヨークのファンの人が作ってくれた、という。日本語の発音がやたらいいんですが、なぜ? 「実は10年ほど前に、富山県にいたの」 「ええ? 富山県?」 「2週間ほどサマーキャンプでね。その時は、周りがまったく日本語しかない環境で。少し日本語を覚えたの。ひらがなも少しね。まだ覚えてるわ。あなたの名前は?」 と言って彼女は僕の名前を紙にひらがなで書き出した。おおおっ。

どのようにして、現在のスタイルを? 「自然にね。たくさんの音楽を聴いてきて、徐々に出来上がったの。絶対音感はないわ。相対音感ね。でも、自分ではCならCがどの音かはわかる。だから、それがずれていたら、直すという感じ。私は元々ドラムから始めたの。歌? 歌わないわね、シャワー以外では。コードを弾く程度なら一緒に歌えるかもしれないけど、集中してギターを弾いていると一緒に歌えない」

Legs to Make Us Longer [ENHANCED] [FROM US] [IMPORT]時には他のミュージシャンとのコラボレーションもするが、基本的にはひとり。昨年ソニーからCD『レッグス・トゥ・メイク・アス・ロンガー 』を出してからは、それがリリースされた国などを回っているという。チャーリー・ハンターを思い出したのでそれを告げると、チャーリーの前座をやったことがあるという。チャーリーは特製の8弦ギターを使う。「自分では、何弦くらいまで弾きこなせると思う?」と「7つね」との答え。チャーリーみたいに8弦は自信がないそうだ。

誕生日はいつ、と尋ねると79年8月24日、まだ25歳だ。彼女がWhat's birthday? と聞いて来たので僕の誕生日を言うと、No no birthday. つまり、誕生日って日本語で何? という意味だった。だから、「たんじょうび」と答えると、また、かたかなで「たんじょうび」と書いた。わお! 

ワンセットに一曲でいいから、知ってるスタンダードをやってくれたら、かなりいいのにな、と思って尋ねた。「スタンダードとか、他人の曲のカヴァーはやらないの?」 「やらないわねえ」 「レコード会社の人がカヴァーをやってくれって言わない?」 すると横のツアーマネジャーが「彼女には、誰も何かをやれなんて言わないわよ(笑)」と言った。

カーキ・キングって本名? 「ノー、キャサリンよ」。は〜〜〜。なるほど。次来たら、また必ず見に行く。僕の名前を書いた紙の上のほうに、ローマ字でこんなことが書かれていた。watashi no hea e yoo koso. これを覚えたな。

(2005年3月25日金曜、横浜モーションブルー=カーキ・キング・ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>King Kaki

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Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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