NO.936
2005/02/15 (Tue)
Big Night For Ray Charles: The Last God Blessing For Brother Ray: 47th Grammy Award
「最後に訪れた神の祝福」

祝福。

ジーニアス・ラヴ ~永遠の愛73年の生涯で最期にリリースしたアルバムが、生涯最大のヒットになり、そして、生涯最高の栄誉を得ることになった。

第47回グラミー賞は、レイ・チャールズの夜になった。生放送が始まる前に、事前発表ですでに6部門を獲得しており、残るはもっとも注目される主要4部門のうちの2部門「レコード・オブ・ジ・イヤー」と「アルバム・オブ・ジ・イヤー」を取れるかにかかっていた。

アリシア・キーズが自分の持ち歌「ユー・ドント・ノウ・マイ・ネーム」を歌い終えマイクに向かった。「では、ジェイミー・フォックスとクインシー・ジョーンズをご紹介します!」

映画『レイ』で見事な演技を見せたジェイミーが舞台袖から登場、指揮棒を持つクインシーの横を通り、白のグランドピアノに進んだ。マイクを自分の位置に合わせ、「古き友人のために」と言ってピアノを弾き始めた。アリシアとピアノを挟んで向かい合い、「ジョージア・オン・マイ・マインド」が始まった。ジェイミーとアリシアの熱唱が、ステイプルズ・センターの聴衆の心を一気につかむ。オーケストラを指揮するブラザー・レイの親友、クインシー・ジョーンズは黒のタキシードのボタンをしめて指揮棒を振る。

二人の熱唱が終ると、アリシアとジェイミーはピアノの前に進み、抱き合った。聴衆はスタンディング・オヴェーションを送る。クインシーがしめていたタキシードのボタンをはずし、自慢げに胸を広げた。すると、ブラザー・レイの顔が描かれたTシャツが姿を現した。クインシー、ジェイミー、アリシア
そして、レイ・チャールズのソウルがひとつになった瞬間だった。

「ソング・オブ・ジ・イヤー」の発表、アッシャーとジェームス・ブラウンのライヴが終わり、いよいよ「レコード・オブ・ジ・イヤー」の発表になった。ノミネートが読み上げられ、シェリル・クロウが 受賞者の書かれた封筒を開ける。「レイ・チャールズ、そして、ノラ・ジョーンズ!」。

「もう泣きそうだわ。音楽の素晴らしさを見せつけてくれたわ」とノラはステージで言った。一昨年の主要4部門独占を果たしたノラ・ジョーンズの感慨深いグラミー受賞だ。そして、白人ブルース・シンガー、ボニー・レイットはキーボード奏者、ビリー・プレストンとともにレイ・チャールズへのトリビュート、「ドゥ・アイ・エヴァー・クロス・ユア・マインド」を歌った。この曲はアルバム『ジニアス・ラヴズ・カンパニー』でも、ボニーがレイとともに歌った曲だ。

ボニーがしっとりと歌う。「私が、一度でもあなたの心をよぎったことがあるかしら。ふとした場面で、あなたの記憶の引き金をひいたことがあるのかしら。この長い年月、あなたはどうしているの」 バックでビリーのハモンド・オルガンが響く。かつて、レイ本人のバックをつけていたこともあるビリーの動きが心なしかレイを思わせる。

そして、最後に残った部門は、「アルバム・オブ・ジ・イヤー」だ。ここには700万枚以上というセールスを誇る強敵のアッシャーがいる。300万枚のアリシアも、さらにグリーン・デイも、10のノミネートのカニエ・ウェストもいる。いずれが来てもおかしくない最難関の部門だ。今歌を歌ったばかりのボニーと俳優のゲイリー・シニーズが壇上に上がった。

そして、封が切られた。「『ジーニアス…』」 レイットの声が一瞬止まった。そして、二人で声を振り絞った。「『ラヴズ・カンパニー』!」 レイ・チャールズの『ジーニアス・ラヴズ・カンパニー』が8部門目の受賞を果たした。他界したアーティストがこの「アルバム部門」を受賞したのは、82年のジョン・レノン以来のことだった。これによって、レイのグラミーは17個(関連受賞3部門は数にいれていない)になり、歴代8位タイとなった。グラミー賞のショウのエンディングにふさわしい今年を象徴するレイ・チャールズの受賞だった。

自伝『わが心のジョージア〜レイ・チャールズ物語』の「ブラザー・レイ最後の日々」では、レイ・チャールズの死を悟った心の内が明かされる。それを読んだ時、僕はブラザー・レイは、この『ジーニアス・ラヴズ・カンパニー』が彼にとっての遺作となることをまちがいなく知っていたことを確信した。同じくあの映画『RAY/レイ』も彼にとっての最後の映画となることがわかっていたのだろう。ひょっとしたら、その映画の完成を「見ること」なく、旅立つかもしれないと思っていたに違いない。

そんな彼は、2005年2月13日、この日に、ここで、ここに集まったすべての音楽業界人からこうして祝福されることを知っていただろうか。彼はきっとこう言うに違いない。「いやあ、ワシはただ昔から仲の良い友達と、好きな曲を録音しただけだよ。それがみんなに受け入れれば、それもいい。だが、受け入れられなくても、かまわない。なぜなら、(レコーディングした)彼らと楽しいひと時をすごせたんだからな」 

73年の人生でずっと自らに「神の祝福」はなかったと感じていたレイ・チャールズは、この日、まちがいなく大いなる「神の祝福」を感じたことだろう。それは彼に「最後に訪れた神の祝福」だ。

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Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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