NO.242
2003/05/02 (Fri)
Conversation with Instruments
会話。

楽器とミュージシャンの関係は、とても微妙です。ひとつ言えることは、同じ楽器を弾いても、プレイするミュージシャンが違うと出てくる音が違うものになるということです。これは、不思議なのですが、事実そうなのです。

以前どこかで話したか、書いたかもしれませんが、かつてドクター・ジョンのライヴをブルーノートで見たときのことです。普通の彼のバンドでドクター・ジョンが歌っていたのですが、そのバンドのギタリストは別に可もなく不可もなくという感じでした。まあ、よくあるバンドの一員という感じでした。

そこに一人のギタリストが飛び入りで参加したのです。そのギタリストはドクター・ジョンの大ファンだったので、この日、ライヴを見にきていたのです。最初、ブルージーンズの中年男がステージに上がったとき、だれだか分かりませんでした。でも、顔をよく見ると、「えええっ? うっそ〜〜」の声を出してしまいました。そう、エリック・クラプトンだったのです。

バンドのギタリストからそのままギターを受け取り、エリックはベルトを肩からかけました。そして、ドクター・ジョンのキューと同時に、エリックがギターを弾き始めました。するとどうでしょう。今までとまったく同じギターだったにもかかわらず、音がまったく変わってしまったのです。なんということでしょう。これこそマジックです。本当に今までとまったく同じギターで、しかも、チューニングなども同じです。

同じギターも、エリック・クラプトンが弾くと、まさにクラプトンのギターになってしまったのです。それほどまでに、楽器はプレイする人を表すのです。

「ピアノもねえ、同じなのよ。特にピアノは、乗馬と同じように感じるわ」 こう話すのは、先日ライヴを見せたピアニストのサヤ。「以前乗馬したときに、乗馬の先生が乗った馬と同じ馬に私が乗っても、なかなか言うことをきいてくれないの。教えられた通りに指示するのに、馬はまっすぐ行ってくれないのよねえ。馬は、乗る相手がどれくらいの力量があるか知っているのね。下手な人の言うことはきかない。なにか、こう見透かされているようで」

「ピアノも同じように、自分の調子がいいときは、ピアノもそれを知ってるのよ。ピアノはまさに生き物と一緒。ピアノも、相手のレベルや気持ちがわかっているの。いかに集中できるか、いかにそのピアノをコントロールできるか、それが問題なわけ」

ピアノにもむずかしいピアノ、やさしいピアノがあります。上品な馬や荒くれの馬がいるように、さまざまなピアノがあります。弾き手のレベルが高くなれば、どんなピアノでも、どんな馬でも乗りこなせるようになります。でも、そこまでの域に達していないと、ピアノに負けてしまうこともある。また逆に、ピアニストの力が足りないときには、ピアノ・パワー(ピアノの力)に助けられることもあるのです。

で、サヤは荒くれ馬でも乗れるのだろうか、と尋ねました。「いやあ、私はまだ上品な馬(ピアノ)しか乗れないわねえ。いずれ、どんな馬でも乗れるようになれるといいけれど(笑)」と答えました。

ピアノも、演奏者の心の動きを知っているんですね。すごいけど、そういうことなんでしょう。わかる気がします。僕には、その模様がミュージシャンと楽器が会話をしているのではないかと感じます。きっと会話が成立している演奏は、極めてすばらしいものでしょう。そして、そういう瞬間にはなかなか立ち会えないのもまた事実です。だから、そんな現場に遭遇したら感動もひとしおということになります。そして、その会話を聴くためには、聴く側も感性を研ぎ澄まし、集中しなければなりません。

Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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