NO.152
2003/02/12 (Wed)
A Night To Remember
ラウンジ。

ロンドンのレインズボロー・ホテル。ハイドパークに隣接する高級ホテルのひとつです。そのホテルにラウンジのようなレストランがあります。朝食からディナーまでだしてくれるそのレストランは、天井が高く、朝は日差しが入ってきて、じつに気持ちよく、夜は夜で暗めの照明がおちついた雰囲気をかもし出します。

一段高くなった台の上に大きなグランドピアノがあります。94年12月のある夜、そこには2−3組のお客さんしかいませんでした。ウエイターたちの数の方が多いのです。普段は、週末あたりにピアニストが入って、ラウンジ系のスタンダードなどを、時には客のリクエストに応じてプレイします。

その夜、その彼は「ちょっと歌ってみたくなった」ので、ピアノのほうに進んで行きました。別に誰のために歌うでもなく、自分のために、自分がただ歌いたいから歌うのです。カラオケで人が歌いたいと思うように、彼は歌いたかっただけなのです。

ピアノをポロポロと弾きだし、歌い始めました。here we are...。それは、「ユー・アンド・アイ」という曲の出だしでした。そう、それはスティーヴィー・ワンダーだったのです。ホテルのラウンジで、スティーヴィーがピアノの弾き語りを始めたのです。お客さんなんかほとんどいません。そのお客さんでさえ、最初はそれがまさかスティーヴィーだとは知らないのです。

好きに、自由に、続けて「ノー・タブー・トゥ・ラヴ」、さらに、ピアノ一本で「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」、「リボン・イン・ザ・スカイ」と一気に歌ったのです。「リボン」では、声を張り上げて、熱唱です。そして、「リボン」が終わると、いつのまにか、仕事を忘れて立ちすくんでいたウエイターたちからも割れんばかりの拍手が鳴り響きました。

この日、ちょうどスティーヴィーは新作「カンヴァセーション・ピース」の発売に関連して、世界各国のメディアのインタヴューを受けていました。僕もその一人として、取材をしたのですが、それが終わって、夕食を取りにきていたのが、このときだったのです。

それにしても、この4曲のさりげないメドレーには感動しました。特に「リボン」の後半は、ぐんぐんスティーヴィーの世界に引き込まれてしまいました。

こんな間近でスティーヴィーの弾き語りを聞けるなんて、この夜のことは、僕にとってまさに記憶に残る一夜となりました。

(また、スティーヴィー・ネタになってしまいましたね。明日こそは、話題を変えましょう) 
Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
|Return|