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『車窓を奏でるメロディー』(17)

illustration by Picaro Taro Manabe
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『鏡文字からよみがえる十六年前の思いで』

曲:      『トレインアカミング/トレインアゴーイング』
           「Trainacoming/Trainagoing」
歌:      シーラE.&ジ・Eトレイン
           SHEELA E.& THE E TRAIN
年:      1997年

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『鏡文字からよみがえる十六年前の思いで』


   1984年12月。シカゴ、アンバサダー・イースト・ホテル。シカゴ
きっての超一流ホテルの一室で僕は彼女がやってくるのを待ってい
た。ちょうどその夏大ヒットした「グラマラス・ライフ」を歌った
シーラEに取材するためだ。予定時刻から少し遅れてやってきた彼
女は、ライヴ・パフォーマンスの熱狂的な動きとはまったく対照的
なもの静かな女性だった。しかも語り口はソフトスポークン。音楽
の激しさとの落差に少なからず、衝撃を覚えた。短いインタヴュー
が終わって、アルバムにサインをもらった。

   「誰あてに?」と言われ「トゥ・マサハル」と答えた。彼女はサ
ラサラと文字を書いてくれた。すると、それは見事な鏡文字(左右
逆に書いてあり、鏡に映すと正しく映る文字)になっていた。自分
のサインは何度も書いたので、鏡文字でも書けるだろう。だが、僕
の名前まで逆になっていたのだ。「ヒットが出て、みんなにサイン
を求められるようになって、他の人と何か違うサインを書こうと思
うようになったの。そこで、逆に文字を書くことを思い付いたわけ
」

   2000年 6月、青山のブルーノート東京。暗くなった会場の通路に
スポットライトがあてられ、そこをシーラEとバンド・メンバーが
ステージに向かって歩いていく。シーラの約一年ぶりのライヴだ。
この日は  いきなりドラム・セットのところに進み、その前に座っ
た。

   なぜか今年は彼女はパーカッションはほとんど叩かずにずっとド
ラムを叩いていた。ショウの後、楽屋で会ったシーラに尋ねた。「
えーと、そんなに深い意味はないの。ただ、ここのところ、ずっと
ドラムを叩きたいと思っていて。去年のステージとは、そこが違う
のよ。今年は去年より少しアコースティックな感じの曲が多くなっ
ているし」

   マネージャーでもあり、ステージでリード・ヴォーカルも担当し
親友でもあるリン・メイブリーも「彼女は、何といってもその日の
気分でやることを変えるから」と言って笑う。どうやら、今時、彼
女はドラムな気分らしい。

   シーラの最新作は、自らのグループ、Eトレインによる『ライツ
・オブ・パッセージ』というCD。ジャケットは、どこかの鉄道の
線路の上で撮影されている。そして、グループ名は、シーラEだか
らEトレインになった。ごていねいにこのCDは、列車が走る音で
始まり、それで終わるという構成だ。

   この新作CDにサインを頼んだ。すると、 16 年前と同じように
さらさらと鏡文字で、「トゥ・マサハル」とローマ字で書いてくれ
た。それまで、彼女のサインのことはずっと忘れていたが、その鏡
文字を見た瞬間、僕にはあのシカゴのアンバサダー・イースト・ホ
テルの部屋でのインタヴューのことが思い起こされたのだ。

   鏡文字が、僕を16年前にトリップさせてくれた。


(2000年8月号L&G誌に掲載)

(2003年2月11日アップ) 
    
2000年8月号L&G誌に掲載
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