PERIODICAL>L&G>FRANKLIN, ARETHA
『車窓を奏でるメロディー』(15)

illustration by Picaro Taro Manabe
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『恋人が乗る5時03分の列車を待つ女』

曲:      『もうすぐ彼が』
           Won't Be Long
歌:      アレサ・フランクリン
           Aretha Franklin
年:      1961年


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『恋人が乗る5時03分の列車を待つ女』


   彼女は線路の脇に立って、長い間別れていた恋人が帰ってくる5
時03分の列車を待っている。それはもうすぐやってくる。彼との
再会に胸をときめかせながら列車の汽笛に一喜一憂する乙女心を歌
っているのは「クイーン・オブ・ソウル」ことアレサ・フランクリ
ンだ。

   僕は、彼女の音楽を20年以上聴いてきて、いつかそのライヴを見
たいと思うようになっていた。80年代は、日本がバブル景気にあお
られ、ほとんどのスーパースター級のアーティストが来日し、コン
サートを行なっていた。だが、アレサだけは日本に来ることはなか
った。

   それには大きな理由があった。実は、アレサは大の飛行機嫌いな
のだ。だから、彼女は地元のデトロイトからほとんど動くこともな
く、稀に移動するとしてもそのときはバスを使う。ライヴ活動もま
ず行っていない。  そのため、もし彼女の生の姿を見たいと思った
ら、こちらから出向かなければならないのだ。
   91年、僕はついにアレサがニューヨークでライヴを行なうという
情報を事前に入手した。そこで、取る物もとりあえず、ニューヨー
クに向かうことにしたのだ。

   だが、彼女の気紛れもまた有名で、過去には突然ショウをキャン
セルしたこともままあった。そこで、僕はギリギリまでライヴが行
なわれるかどうか確認するために、ショウの当日のニューヨーク入
りという少しばかりハードなスケジュールを立てた。

   夕方4時過ぎに成田を立つと、同日の夕方ニューヨークに到着す
る。ショウは午後8時過ぎからだから充分まにあうはずだ。ところ
が、当日飛行機が機材トラブルで4時間程遅れることになってしま
い、一気に計算が狂い僕は焦った。8時にケネディー空港に到着し
て、タクシーを飛ばしてマンハッタンまで行くとして、到着は9時
頃ではないか。やはり前日に行っておけばよかったか。

   果たして、空港からマンハッタンまではそれほど車も渋滞してお
らず、9時少し前に会場のラジオ・シティー・ミュージック・ホー
ルに到着した。しかし入口付近は誰もいない。明らかにショウは始
まっていた。かなり最初の部分を見逃がしてしまったな、と後悔の
念が脳裏をかすめた。

   しかし−−−。会場の扉を開けると、そこに出現した光景は瞬時
に僕に安堵の感を与えてくれたのだ。ステージでマイクを持って歌
っていたのは、前座を務めていたピーボ・ブライソンだったのであ
る。

   アレサのショウが始まるまでの休憩時間は複雑だった。ピーボの
おかげでアレサを最初から見られるという安堵の気持ちと、早く見
たいという高まる期待が交錯した。それは、長い間別れていた恋人
が5時03分の列車に乗って帰って来るのを待つアレサの心境と同
じだった。そして、彼女がステージに登場し、最初の歌詞を歌った
瞬間、僕は全身に鳥肌が立った。

(2000年6月号L&G誌に掲載)

(2003年1月28日アップ)
    
2000年6月号L&G誌に掲載
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