PERIODICAL>L&G>GREEN, AL
『車窓を奏でるメロディー』(10)

illustration by Picaro Taro Manabe
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『ゴスペルとR&Bの世界を行き来する迷えるソウル・シンガー』

曲:      バック・アップ・トレイン』
          「Back Up Train 」
歌:      アル・グリーン
          Al Green
年:      1967年

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『ゴスペルとR&Bの世界を行き来する
迷えるソウル・シンガー』

  ゴスペル(教会音楽)と世俗的なR&B。このふたつは、アフリ
カン・アメリカン(黒人)の歌手にとって、切っても切り離せない
ものだ。だが、ゴスペルとR&Bの世界には厳然たる境界線があり
その一線を越えると、ゴスペル界から猛反発される。それは単に、
金儲けに走ったとみなされるからだ。心ある歌手は、常にその葛藤
に悩む。

  故郷に恋人を置いてきてしまったが、どうしても彼女への思いが
断ち切れず、機関士に列車をバックさせてくれ、と懇願するこの曲
を歌うのは、ゴスペルの世界と、R&Bの世界をリヴォルヴィング
・ドアのように行き来するシンガー、アル・グリーンだ。彼はなぜ
二つの世界を行き来するのか。    

  アルは、1946年アメリカ南部アーカンソー州に生まれ、幼少
の頃からゴスペルを歌ってきた。だが、60年代中頃から、神のメ
ッセージを歌う神聖なゴスペルだけでなく、生活のためにより世俗
的なR&Bを歌い始める。この「バック・アップ・トレイン」は、
そうしたR&Bソングとして彼にとって初ヒットとなった作品だっ
た。

  その後70年代に入って、「レッツ・ステイ・トゥゲザー」や、
「コール・ミー」などが世界的に大ヒット。彼はまたたくまにスー
パースターの座につく。そんな73年のある日、彼は目が覚めた時
に「神の啓示」を受ける。「それは今までに体験したことがないも
のだった。自分の中にまったく新しいパーソナリティーが入り込ん
だようだった」と振り返る。

  翌74年、つきあっていたガールフレンドが結婚を迫ってきた。
人気シンガーとして忙しい生活を送っており、ちょうど仕事も油が
のり始めた頃で、とてもそこまで気持ちの余裕がなく、彼は「ノー
」と答えた。彼女はひどく落胆した。

  アルがベッドルームにいると、別の部屋のほうから「パーン、パ
ーン」という乾いた音が聞こえてきた。あわてたアルがそこに行く
と、彼女がピストルを持ち、血を流しながら横たわっていた。即死
だった。

  彼はこの事件を機に、神のメッセージであるゴスペルへ再度目覚
めていくようになる。76年、アルはメンフィスに教会を買い求め
牧師の資格を取り、毎週その教会で説教をし、ゴスペルを歌うよう
になる。

  さらに79年、彼は公演先で誤ってステージから転落し、大怪我
を負う。その入院中彼は自身の人生をじっくりと振り返った。そし
て、世俗的なR&Bを捨て、ゴスペルだけを歌う決意をするのだ。

  80年代、彼はずっとゴスペルだけを歌ってきた。だが、その閉
鎖的な世界に少しばかり厭気がさし、90年代、再びR&Bの世界
に戻る。

  アルがこの「バック・アップ・トレイン」を歌う時、ひょっとし
て、彼はゴスペルとR&Bの世界の往来を思い浮べているのだろう
か。

(2000年1月号LG誌に掲載)  

(2002年12月24日アップ)
    
2000年1月号L&G誌に掲載
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