PERIODICAL>L&G>EASTON, SHEENA
『車窓を奏でるメロディー』(5)

illustration by Picaro Taro Manabe
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『モーニング・トレインから生まれる様々なドラマ』

曲:  『モーニング・トレイン(9トゥ5)』
        Morning Train (9 to 5)
歌:  シーナ・イーストン(Sheena Easton)
年:  1980年

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『モーニング・トレインから生まれる様々なドラマ』



   朝の電車からは、様々なドラマが生まれる。

   ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープは映画『恋におちて
』(1984年)で、ニューヨーク郊外からマンハッタンに向かう
朝の通勤電車で巡り合う男と女の物語を演じた。毎朝同じ時刻に、
同じ列車の同じ車両に乗る人々。毎朝ゆえに、そこに様々な人間関
係が生まれる。

   映画でのデ・ニーロとストリープは、共に家族がいるがお互い惹
かれあうようになり、プラトニックな愛が育まれる。いつもと同じ
列車に駆け込み、目指す相手が乗っているかを確かめるふたり。何
メートルか離れているものの、時々、目と目が合う。毎朝の電車(
モーニング・トレイン)がカギとなるラヴ・ストーリーだ。

   そんなモーニング・トレインを題材にした歌が、シーナ・イース
トンのその名の通り「モーニング・トレイン(ナイン・トゥ・ファ
イヴ)」だ。この曲の主人公は、家で夫の帰りを待つ妻。その夫は
毎朝列車に乗ってオフィースに行き、9時〜5時の仕事を終え、彼
女の元に帰ってくる。その彼を待つ乙女心を歌う。

   シーナ・イーストンのデビューの仕方は一風変わっていた。彼女
は1959年、スコットランド生まれ。歌手を目指していた79年
に、こんなチャンスが訪れる。イギリスのBBC放送が『ビッグ・
タイム』というドキュメンタリー番組で、無名新人が大手のレコー
ド会社と契約を結び、デビューし、スターとして成功するか否かを
ドキュメントしようと考え、その候補としてシーナに白羽の矢を立
てたのだ。

   BBCは、彼女がレコード会社のオーディションを受けるところ
から取材を開始するが、もし彼女がそれに落ちてしまうと、番組自
体の方向性を変えなければならない。レコード会社の担当ディレク
ターは実は、無名の新人とは契約するつもりはなかった。緊張の中
オーディションが行なわれるが、そのディレクターは意外なことに
シーナの歌声を気に入り、彼女と契約することになったのである。

   BBCは、その後、彼女のレコーディング風景など一部始終を撮
影。デビュー曲「モダン・ガール」が80年2月に発売されるがそ
れほどのヒットには至らない。成功する保証もなく、ドキュメンタ
リーに筋書きもなかった。第2弾シングルの「モーニング・トレイ
ン」がその夏に発売され、ほぼ同じ時期に番組が放送された。この
放映時点でも、シーナの歌手としての将来は誰にも想像できなかっ
た。

   だが、番組が放映されるやすぐに「モーニング・トレイン」は火
が付き、イギリスで大ヒット。さらにアメリカ、世界中でも大ヒッ
トになり、彼女は、81年度のグラミー賞新人賞まで獲得すること
になった。

   シーナ・イーストンのシンデレラ・ストーリーは、朝の列車から
生まれたもうひとつのドラマだった。


(2002年11月19日アップ)
    
1999年8月号L&G誌に掲載
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