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『車窓を奏でるメロディー』(3)

illustration by Picaro Taro Manabe
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『その列車は、希望の灯火
その列車の乗車券は、信念』

曲:  『ピープル・ゲット・レディー』
        (People Get Ready)
歌:  インプレッションズ(Impressions)
年:  1965年

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『その列車は、希望の灯火
その列車の乗車券は、信念』


   人々はその列車に乗る心の準備はできている。だがその列車に乗
るために切符は必要ない。必要なのは、信念だけ。人種差別がまだ
まだ残る1965年のアメリカで、この叙情的な美しいメロディー
を持つ「ピープル・ゲット・レディー」という傑作はヒットした。
シカゴ出身のカーティス・メイフィールドという歌手が自らのグル
ープ、インプレッションズとともに歌った作品だ。その後ロック歌
手、ロッド・スチュワートもヒットさせ、多くの人に知られる。

   60年代に入り、公民権、人権問題などの運動が活発になりはじ
め、カーティス・メイフィールドは、自らが作りだす歌の中に、社
会的、政治的主張をこめるようになった。この歌で歌われる列車は
ヨルダンへと向かう。列車を精神的、普遍的な目的地、約束の地へ
到達するものとして比喩(ひゆ)している。

   カーティスはその後グループから独立し、ソロ・シンガーとして
「スーパーフライ」などの大ヒットを放ち、天才シンガー/ソング
ライターとしての才能を発揮する。

   だが、90年8月、ニューヨークの屋外でのコンサート前に、突
風にあおられた機材が倒れ、彼の上に覆いかぶさった。一命は取り
とめたものの下半身不随の重症をおう。その後、必死のリハビリの
おかげで徐々に復活。

   94年3月、彼はグラミー賞授賞式で、特別功労賞を受ける。司
会者が紹介して始まったカーティス・メドレーのトップを飾った曲
こそ「ピープル・ゲット・レディー」だった。最初のフレーズをブ
ルース・スプリングスティーンが歌い、さらにボニー・レイットが
引き継ぐ。続いて、BBキングらそうそうたるメンバーが登場。そ
して、カーティスが車椅子に乗ってゆっくり舞台中央に進んだ。タ
キシードや派手なスーツに身を包んだ会場の全員から万雷の拍手が
ずっと続く。

   彼が二度三度、発する「サンキュー」という言葉が拍手の洪水に
かき消される。喧騒が静寂に変わり、彼はあいさつを始めた。その
声はかつてソウルフルな歌を堂々と歌っていた頃とは別人のように
弱々しかった。そして最後に「みなさんに支えられた35年の音楽
人生に感謝したい」と結んだ。

   人種差別は表面的にはなくなったが、逆に根の奥深いところでは
より陰湿になってきていると言われる今日。この曲が持つ普遍的な
メッセージは、21世紀の夜明けともいえる今にも大きな意味を持
つ。

   30年以上前に、「信念さえ持てば約束の地に向かう列車に乗れ
る」と信じてその列車に乗った人々は、今どこで何をしているのだ
ろうか。例えば、戦火の続くユーゴからの難民は、こんな列車に乗
りたいに違いない。そして今日、この列車に乗りたいと思っている
人は、世界中のどこにでも大勢いる。カーティスの生み出した列車
は、希望の灯火(ともしび)となった。


(2002年11月5日アップ)
    
1999年6月号、L&G誌に掲載
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