PERIODICAL>L&G>KNIGHT, GLADYS & PIPS
『車窓を奏でるメロディー』(1)

illustration by Picaro Taro Manabe
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『片道切符で故郷に帰る 夢破れた男』

曲:  『夜汽車よ、ジョージアへ』
   (Midnight  Train  To  Georgia)
歌:  グラディス・ナイト&ピップス、
年:  1973年

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

   『片道切符で故郷に帰る 夢破れた男』

   ニューヨークのグランドセントラル・ステイション、フィラデル
フィアのサーティース・ストリート・ステイション。それぞれの都
市には、各地へ向かう始発列車が旅立つ大きな駅がある。
   人は様々な理由を持って列車に乗る。長く会っていなかった家族
に会うために、遠く離れた恋人に会うために、あるいは、あてもな
く旅をするために。希望と期待を胸に新天地へ向かう者がいれば、
夢叶わず故郷に失意のうちに戻る者もいる。
   「夜汽車よ、ジョージアへ」の主人公は、失意のうちに故郷に戻
るある意味で人生の敗北者だ。彼はスターになることを夢見て大都
会ロス・アンジェルスにやってくるが、そこはあまりに厳しい街だ
った。彼は夢というものは誰もが必ずしも叶えられるものではない
と悟り、片道切符を買って真夜中のジョージア行きの列車に乗る。
そして、歌を歌う「私」も彼についてその同じ列車に乗る。
   これを歌うのは、ジョージア州アトランタ出身の女性ソウル・シ
ンガー、グラディス・ナイトと彼女の兄弟いとこからなるピップス
というグループだ。グラディスの情感あふれる歌唱が、見事なイメ
ージを与える73年の傑作である。
   ところが、この作品のタイトルは「ジョージア行きの真夜中の列
車」だが、最初ソングライター、ジム・ウエザリーが書いたときに
は、「ミッドナイト・プレーン・トゥ・ヒューストン」(ヒュース
トン行き真夜中の飛行機)というものだった。ジムが友人と会話を
しているときに、この曲の物語を思い付き、まず自作自演で録音し
た。それを聴いたアトランタ在住のプロデューサーが、自分がてが
けていたシンガー、シシー・ヒューストンで録音しようと考えたが
そのとき、タイトルを「ミッドナイト・トレイン・トゥ・ジョージ
ア」に変更したのである。自分がジョージア出身ということもあっ
たが、何より、真夜中の飛行機よりも、列車のほうが物語性が高ま
ると考えたわけだ。
   このシシーは、かのホイットニー・ヒューストンの母親である。
だが、シシーの歌う「夜汽車よ、ジョージアへ」は発売されたレコ
ード会社が小さかったためかヒットしなかった。そして、そのシシ
ーのヴァージョンを聴いたグラディスたちが、再度録音したところ
見事な全米大ヒットになったのである。
   この曲はジムが歌い、シシーが歌いヒットしなかったが、グラデ
ィスが歌ったことでついに日の目を見ることになったわけである。
   それにしても「ヒューストン行き真夜中の飛行機」を、「ジョー
ジア行き真夜中の列車」にしたところが、なんといっても勝因だと
思う。それに、ヒューストンよりも、やはり「風と共に去りぬ」の
ジョージアのほうがアメリカ人の郷愁を誘う。ヒット曲というのも
実に紙一重のところで生まれるものである。
1999年4月号、L&G誌に掲載 吉岡正晴
|Return|