NO.658
2004/05/28 (Fri)
Flaming Performance That I Wanted To Frame It: McCoy Tyner Live
額装。

いい演奏、いいライヴを見ていると、いかにそのライヴを自分の記憶の中にとどめ、それを文字にして多くの人に伝えることができるのだろうか、ともんもんとすることがある。もちろん、音楽は文字にはできない。それはミュージシャンが絵や映像や文字を音にできないのと同じだ。しかし、ミュージシャンはそのために必死になる。ならば書き手も文字にすることが不可能な音楽をどこまで文字にできるか必死になるのもいいだろう。

たいがいの場合は、いいライヴ演奏の時は、次々とキーワードとなるような言葉が浮かんでくることが多い。2003年7月以来のジャズピアノのマッコイ・タイナー・トリオの演奏を見ながら、そんなことを思ってしまった。

まず、やはりピアノ・トリオっていうのがいいなあということを痛切に感じる。長老のピアニストが、若手のドラム(ルイス・ナッシュ)とベース(チャーネット・モフェット)に指示をだして、バランスよく曲を編み上げていく。このトリオについて一言で言えば、全員、笑ってしまうほどすばらしい。個々がすばらしく、しかもユニットとしてもひとつのものになっている。極論すればピアノトリオとしての完璧さが輝いている。まさにOne Nation Under A Groove! ネイションが大げさなら、そこをバンドという単語に置き換えてもいい。前回もよくてため息がもれたが、マッコイだけでなく、今回のベースの暴れようのすばらしさといったら。ドラムスのシュアでソリッドな安定感。「けっこういいはず」と思って行って、その期待以上のパフォーマンスをみせられれば、ただただ帽子をとって、お辞儀をするしかない。

僕は初めて見るベースのチャーネット・モフェットには度肝を抜かれた。アコースティック・ベースをあんなに早く、しかも、強く、時にチョッパーで叩き、しかも音の輪郭は決してぶれることなく音像としてくっきり浮かび上がらせる。あの大きなベースを激しく揺らしてプレイすることさえある。かっこいい。

ドラムスのルイス・ナッシュも軸がぶれずに、的確にリズムを叩きだす。緩急自在。かっこいい。クラスのあるドラミングだ。ルイスも、よくマッコイの方を見ている。

そして、マッコイのピアノ。アグレシヴで、しかしときにやさしく、ふと気が付くと本人が何かをハミングしながらプレイしているときもある。男気があり、ちょっとマッチョで、色気もある。これもかっこいいとしかいいようがない。仮にジョー・サンプルのピアノを引き算のピアノとするなら、マッコイ・タイナーのピアノは、足し算、もしくは掛け算のピアノかもしれない。

3人の緊張感は、聴く側にも適度な緊張を強いて、それが楽器の音への集中につながる。3人は限界点まで全力で走りきる。限界へ挑戦していることがわかるので、聴く側も思わず手に汗握って応援してしまうかのようだ。それはすばらしいスポーツ試合を観戦しているときと同じだ。そして、若き二人はまちがいなく、このマッコイというヴェテランピアニストに多くのリスペクトを持っている。3人がプロの職人であり、匠であり、そこには完全なミュージシャンシップが横たわる。

曲を弾き終えると彼はピアノの上に置いてあったハンカチーフで額の汗をぬぐう。そして、そのハンカチをぱっとまたピアノの上に軽く投げるや次の曲に突入する。実に粋だ。

今夜の3人を見て、「ジャズ・ミュージシャンとは本当にかっこいいものだ」ということを痛切に感じた。例えば、このトリオのライヴが明日もどこかであって、その現場に立ち会えないということは、なんと歯がゆいことかとさえ思う。彼ら3人のこの1時間13分におよぶ燃え滾る(たぎる)パフォーマンスは、もし可能なら、額縁にそのまま収めたいとさえ思った。そう、これは額装したいパフォーマンス。

マッコイ・タイナーがアンコールを終えて舞台を降りてくるとき、思わず手を伸ばして握手を求めた。彼は握手をしてくれた。その手は、汗ばんでいたが、感触はごつごつした感じではなくやさしく、暖かく、ふんわりとしていた。

++++

マッコイ・タイナー前回来日時の日記。2003年7月8日付け。
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200307/diary20030708.html

ブルーノートのページ
http://www.bluenote.co.jp/art/20040524.html
2004年5月29日まで。


(2004年5月27日木曜セカンド、東京ブルーノート=マッコイ・タイナー・トリオ)

ENT>MUSIC>LIVE>Tyner, McCoy Trio

Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
|Return|