NO.534
2004/02/05 (Thu)
In A Class By Itself: Witnessed God's Hands: Hank Jones Live At Blue Note
上品。

ピアノ、ベース、ドラムの3人が皆、黒のタキシードに身を包んでステージにあがる。きっちりした正統派ジャズのライヴだ。2日間だけの超ヴェテラン・ジャズ・ピアニスト、ハンク・ジョーンズのブルーノート公演。1918年7月31日生まれの現在85歳。大正7年生まれ。今年の誕生日で86歳を迎える。ベース(ジョージ・ムラーツ)とドラムス(デニス・マクレル)の超強力トリオ。ピアノのプレイなどとてもその年齢とは思えない。まずその年齢とこのプレイに度肝を抜かれた。そして、一言でこのトリオを表すなら、なんとクラース(品格)のあるピアノトリオか、ということ。品があり、洗練され、それでいてしっかりとグルーヴもある。古き良き時代のジャズの魂が見事に今でも生きているという感じだ。

その時代をリアルタイムで経験したわけではないが、ハーレム・ルネッサンス(1920年代から1940年代にかけてニューヨークのハーレムがカルチャー的に大全盛を向かえた期間のこと)時代の、ジャズが若々しく、最高にヒップで生き生きしていた頃にタイムスリップさせてくれるかのようだ。真面目なジャズ職人3人が集まって、オーソドックスにジャズを演奏してくれる。

ブラシのみのドラムソロになると、音がものすごく小さくなり、ブルーノートのエアコンが動く音が聴こえてくるほど。そのドラムソロの間、ベースのジョージは高い椅子に寄りかかり、ゆっくりとハンカチで額の汗をぬぐっていた。そのドラムソロが終わり、観客から拍手がくると、デニスはゆっくり二度三度と首を縦にふり、ありがとうの仕草をした。それがまた粋だ。

ハンク・ジョーンズのピアノのタッチは優しく、穏やかでクール。それはまさに高級なシルクの手触りだ。そして雄大な包容力がある。彼は律儀に各曲を紹介してからプレイする。そうしたキャラクターがピアノの音から伝わってくる。

耳をべースに転じると、その見事なグルーヴ感からベースがまるで息をしているかのようだ。僕は多分彼の生のベースを聴くのは初めてかもしれないが、その音の良さにノックダウンさせられた。すばらしいベース奏者だ。聞けばハンクとは2-30年一緒にやっているという。ドラムスも、10年かそれ以上一緒にやっているという。このトリオのレコードを聴きたい。

ちょうど担当の伊藤八十八さんがいらっしゃったので、ちょっとだけ楽屋におじゃますることができた。最初ハンクは別の人たちと談笑していた。ドラムスのデニスがビールを飲んでいたので声をかけた。「ムラーツさんは全部楽譜を見ていたようですが、あなたはまったく見ていませんでしたよね。どうして?」 「ああ、全部覚えてるんだよ(笑)」 「日本に初めて来たのは?」「83年かな、カウント・ベイシーで。確か、彼の最後のツアーだと思う」 確かにカウント・ベイシーは84年4月26日に亡くなっている。

ハンクと握手をした。「お会いできて光栄です。プレイにものすごく感激しました。あなたのピアノにはクラース(品格)がありますね。In a class by itself っていう感じです。これほどのクラースはどのようにして?」 すると少しばかり訛りの強い英語で彼はこう答えた。「ありがとう。さあ、なんでだろう。わからないな。何人かピアノの先生には習ったけどね。カントリーのピアノの先生なんだよ。そのせいかな。長年やってきて、いつのまにか備わったのかな(笑)」

「ところで、いつもタキシードで?」 「タキシードのときもあれば、スーツの時もあるよ。今日はスーツだと暑くてね」 「タキシードは何着お持ちですか?」 「4着かな(笑)、そのうち2着こっちに持ってきた」 「全部黒?」 「いや、ピンクもある(爆笑)」

「元々どちら出身?」 「ミシシッピー州なんだけど、生後8ヶ月くらいでミシガン州ポンティアックに移った。デトロイトから25マイルくらいのところだ。ニューヨークに来たのは1944年くらいかな」 「ということは『ハーレム・ルネッサンス』の時期ですか」 「う〜ん、ちょうどそれが終わりそうな頃だな。いろんなクラブに出演したけどね。(名前を言われたが、聞き取れず) 」 「日本に初めて来たのはいつだか覚えてますか」 「1956年、ベニー・グッドマンとだよ。あ、ちがうな、ベニー・バッドマンだな。奴はバッドマンだからな。(爆笑)」 

ユーモアもたっぷりあるハンク・ジョーンズ翁。ばりばりに若く、現役だ。超満員、立ち見もでた観客席の中に、プロ、アマ含めて一体何人くらいピアニストがいたのだろうか。そうしたピアノをたしなむ人たちが、今日は神の手を一目見たいとやってきていたようだ。そして、神の手は惜しげもなく存分に披露された。ここにも宝物(jewels)はあった。Jewels are here to stay.

(2004年2月4日水曜・ブルーノート東京セカンド=ハンク・ジョーンズ・トリオ・ライヴ)

このトリオのライヴは、もう一日(5日)東京で。その後、名古屋ブルーノート(2月6日、7日)に行きます。

ブルーノート東京のページ。

http://www.bluenote.co.jp/art/20040204.html

デニス・マクレルのページ。(英語)

http://www.dennismackrelmusic.com/home.html


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Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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