『ゴスペル〜グッド・ニュースの訪れ』
【２００１年９月】

■一体感の発散

   ２０００年秋、東京郊外にある横田基地の教会でゴスペル教室が
あるというので、出向いてみた。通常、一般の日本人は基地の教会
には、基地内に友人知人がいないと入れないが、この日は一般の人
にもゴスペルを教えるということで、その会場には１００人以上の
日本人や、もちろん基地内のアメリカ人もきていた。

   入口で高い声、中位の声、低い声の３グループに分けられる。

   そして、教会の牧師兼ゴスペル歌手の人がゴスペルの曲を３パー
トに分けて、歌い方を教える。最後に、みんなで一緒に歌うのだが
、なにしろ人数が大きいので、その迫力たるやなかなかのものだっ
た。

   こうなると、ソロをとる人は別にして、歌がうまいとか下手とか
まったく関係ない気持ちになってくる。みんなが一緒にひとつの歌
を歌う、合唱するという行為自体が気持ちを高めていくのである。

   歌を歌うことは、さらに極論すれば、人間が声を出すということ
は、ある種の解放、発散である。ゴスペルはその解放、発散を大勢
の人間で同時にやることによって、さらに一体感を高める。

   テレビのゴールデン・タイムでは、ネプチューンが司会をする『
ハモネプ』というコーナーが話題になっている。全国の高校生など
がアカペラ・コーラスで競いあっている。彼らも人間の声で、発散
し、さらにそれをエンタテインメント化している。

   そして、歌うことがある種の癒し効果をも持っているという説さ
えでている。

■４世紀を経て日本でもブレイク

   さて、ちょっとしたブームの感さえあるゴスペルの歴史を一瞬で
紹介するとこういうことになる。

   １６２０年、アメリカにキリスト教を布教する清教徒との一団が
メイフラワー号で上陸。教会が作られ、牧師や信者が、聖歌、賛美
歌を歌い始める。黒人はアフリカから奴隷としてアメリカ大陸に連
れてこられ、教会も徐々に黒人教会と白人教会に分かれる。それぞ
れの教会で、それぞれの教会音楽、宗教音楽が様々な名称を付けら
れ今日まで歌い継がれてきた。

   非常におおざっぱに言えば、これらの教会音楽のうち、黒人たち
によって歌い継がれてきたのが、ゴスペルということになる。ゴス
ペルというのは、グッド・ニュースのこと。しいたげられ日々苦し
い生活を送る黒人にとっての唯一のグッド・ニュースがゴスペルを
歌うことによってもたらされたのだ。

   日本で今のようなゴスペル・ブームが起こったきっかけとしては
、ゴスペルのミュージカル『ママ・アイ・ウォント・トゥ・シング
』（８８年）の公開、さらに映画『天使にラヴ・ソングを』（９２
年）と『天使にラヴ・ソングを ２』（９３年）などがある。特に
『２』のほうでは、後に大ブレイクするローリン・ヒルのゴスペル
歌唱が、一部のファンの間で話題になっていた。あるいは、その名
もゴスペラーズの人気で、ゴスペルというものの存在が知られるよ
うになったのかもしれない。最近では、一般の人が参加するゴスペ
ル・コーラスを歌うサークルや、教室が連日満員になっている、と
いう。

   誕生から４世紀を経て、日本でもブレイクといったところか。

■ゴスペルはグッド・ニュース

   ゴスペルには歴史があり、多くの長く歌われてきたトラディショ
ナル（伝統的）な歌がある。その中から比較的初心者向けに選曲さ
れたゴスペル・アルバムが発売される。あのミュージカル『ママ・
アイ・ウォント・トゥ・シング』のプロデューサーでもあるヴァイ
・ヒギンセンが制作にかかわった『アメイジング・グレイス』とい
うアルバムだ。

   このアルバムで歌っているのは、『ママ・・・』の続編ともなっ
たミュージカル『ゴスペル・イズ』（２０００年）を歌った人たち
。中でも、有名な「アメイジング・グレイス」などのア・カペラや
、テイク６の名唱でも知られる「メリー・ドンチュー・ウィープ」
などがすばらしい。ゴスペル教室に通う初心者だけでなく、以前か
らのゴスペル好きの方にも一聴していただきたい作品だ。

   このアルバムをただ聴くだけでも、グッド・ニュースが訪れるか
もしれない。

   なお、このメンバーで１２月に大阪ブルーノートと福岡ブルーノ
ートに来日する。

[September 26, 2001; MASAHARU YOSHIOKA]
"AN EARLY BIRD NOTE"

（東芝ＥＭＩ制作・宣材用原稿）