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深山亭 『灼熱の太陽の元で〜深山亭レポート(2)』
『深山亭』
(そば)
(浜松町)                    
『灼熱の太陽の元で〜深山亭レポート(2)』

【2002年6月21日金曜・東京発】  

  普段は、沼津を本拠においしい蕎麦を探究している本島さん。こ
れまでに5回ほど深山亭にチャレンジしてきているものの、まだ夢
は果たせていません。そんな彼が、同店が長期休暇に入る前の最終
日に、東京出張という千載一遇のチャンスをゲット!  果たして、
運命の女神は、本島さんに微笑むのか。金曜午後1時、浜松町1丁
目で起こったことを詳細報告。深山亭深層レポート、第二弾!  


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  灼熱。

  厳しい太陽の日差しが真夏を思わせる午後1時。本島さんと電話
で連絡を取り合い、現地で待ち合わせることにした。10分ほど早
く僕は現場に到着した。そして、そこで吉岡が見たものは??  (
ここで画面が白黒で反転!)

  ま・さ・か!  

  シャッターが降りてる!!

  「うそだろ?  ガーーーン」

  確かに月曜日帰り際に見た時には、『六月二二日から夏季休業に
入ります』と書かれていた。22日は土曜日だ。なので、21日の
金曜日が最後の日になるはずだった。
  車のエンジンを止めるのも忘れ、小走りに入口のところに行き、
おそるおそる張紙を見る。
  すると−−−。  
  『二二日』の下の『二』の上に、黒いマジックで斜め線が引かれ
、横に無造作に『一』と書き換えられているではないか!  どうい
うことなんだあ!?    要は、夏休みが21日からになってしまっ
たのだ。それは、昨日20日、森下さんが行った日が最後の営業日
だったことを意味していた。
  車に戻り、本島さんに電話。
  「吉岡ですけど」
  「あ、今、田町過ぎたところで、もう次です」
  その声は、期待に胸を弾ませ、ルンルンしている。
  「あの〜〜〜、か、か、悲しいお知らせが・・・」
  「えっ?」
  「やってないんだよ〜〜〜」                      
  「(苦笑)  ホントですか?  うそでしょう?」
  「張紙が書き換えられてたんだよ」
  しばし、電話の向こうからためいきともつかぬ沈黙が。
  「ま、とりあえず、来てよ。店の前で待ってるから」  

                          *****              
  
  そして、ものの10分もしないうちに、本島さん、スーツにネク
タイ姿で到着。額には、若干の汗が。彼はシャッターが締まった店
の前で、呆然と立ち尽くし、膝から崩れ落ちて、頭を路面につけて
言った。
  「な・ぜ・だ・・・」
  歩道に悲しくひれ伏す本島さん。うつぶせになってしばし沈黙の
時が流れ、蚊がなくような口調で力無く言った。
  「いやあ、ちょっと嫌な予感はしてたんですよね。電話しておこ
うかなって。でも今週一杯は、やってるっていうんで、しなかった
んですよ」  
  「モトジー(本島さんの愛称)、何回目?」
  「6回目ですかね、来るのは」
  6回来ても、中には入れず。厳しい蕎麦の世界の掟がモトジーの
前に立ちはだかった。(どんな掟だ)
  彼はまた、深山亭の蕎麦を食することはできなかった。
  肩を落とし、落胆した本島さんと、まあ、どこかでランチをしよ
うということになり、この前森下さんが教えてくれたピザ屋さんを
思いだし、そこに行くことにした。
  気を取り直し少しだけ車を動かし、そのピザ屋「ドリーム・ファ
クトリー」に入る。今日のランチ・ピザを注文し、しばし歓談。
  本島さんがぽつりと言う。「それにしても、一生食べられないの
かな。いや、こんなチャンス、ほんと、まずないんですよ。(平日
に)横浜で仕事があって、それから移動して、東京に行くなんての
ね。普通東京に出張だと、研修かなんかで、一日中どこかに缶詰で
すからね」
  「そうか、ほんと今日は千載一遇のチャンスだったんだ。それに
してもねえ、昨日、(ご主人は)働き過ぎたのかなあ」

                        *****      

  「ドリームファクトリー」の一階カウンターは、10席ほど。こ
の他に2階にテーブル席があるらしい。そのカウンター中央に案内
される。僕の左隣に女性一人、さらにその向こうに二人組、右隣本
島さんの横に3人組がそれぞれ食べている。満席ではない。
  ピザは30センチほどで、超薄いいわゆるローマ風。パリパリで
、かなりいい感じ。ベーコンのピザだった。ベーコン以外も食べて
みたいな。30センチという大きさなので、かなりヴォリュームが
あるように感じられる。これにソフトドリンク(コーヒー、コーラ
など)がついて1300円。まあまあの値段だろうか。ショップカ
ードに「1994」と書いてある。94年オープンだ。
  一階カウンターの斜め前に大きくて立派な窯がある。そこで、ピ
ザを焼く。  
  店自体は、夜9時半ラストオーダーの10時半くらいまで。日曜
祭日休み。ピザを食べた後、夜のメニューも見せてもらった。アン
チパストやパスタなどもあり、比較的良心的な値段。ピザ生地だけ
のフォカッチャは980円と、ブーゼ仲間内で評判の三宿の「フォ
ルツァ」の650円よりちょっと高い。ピザの種類も多数で、13
00円くらいから1980円くらいまで。そして、その値段がけっ
こう細かく刻んであっておもしろい。これは1480円、あれは1
490円とか、1680円とか1690円とか。10円の差って何
、と私は問いたい。細かく原価計算しているのだろうか。客単価は
、ワイン以外の飲み物を含めて3000円前後か。
  立派な窯の奥のほうで薪が炊かれ炎が上がっている。
  蕎麦談議をしながらピザを食べ終えた。客はいつしか、僕と本島
さんだけ。ランチタイムは、まもなく終わろうとしていた。
  店の主人は、年の頃50代の男性。もうひとり、奥さんと思われ
る女性がレジを仕切っている。他に若い人と、あまり若くない人が
働いている。
  「その窯はずいぶん立派な窯ですねえ」
  主人が答える。「ローマから買ってきたんですよ」
  メニューなどにも、ローマやイタリアの写真が貼ってあり、ロー
マ、イタリアには何度も行ってるぞ、という雰囲気が漂う。
  「へええ。いくらくらいするんですか?」
  「いやあ、窯自体はそんなにしないんですよ。向こうで買えばね
、100万くらいなもんですよ。でも、こっちへ持って来る運送費
や、それからこの(釜の)周りのレンガを作ったり、あと、煙突を
、うちは5階まであげてるんですけど、こういうもろもろのがかな
りかかりますね。全部引っ括めると、釜周りだけで1000万近く
いってますね」
  「1000万!!??  すっご。じゃあ、1000万の窯で焼か
れるピザなんだ」
  「どこか地方だと、煙突を上まで伸ばさなくてもいいんですけど
ねえ」  
  「なーーるほど」
  「ここらあたりでやってると、隣から、文句がでたりしてね。(
煙突から出る)煙で、洗濯物が汚れる、とかね。でも、うちは、法
律的にはまったく問題なく作ってるんでね。役所とかも来て、調べ
るんですけど、法律的に問題ないと『あとは当事者同士で解決して
ください』って逃げるんだよね。それでもね、200万くらいかけ
て、煙突は少し手直ししたんですよ」
  都心のピザ店は大変だ。
  窯は薪の火だけ。これで釜の中の温度は400度近くになる。非
常にシンプルだ。
  「窯の上がこう丸くなってるでしょう。だから、窯全体が一定の
温度になるんですね。ピザも焼くし、奥の方で、グラタンも焼くん
ですよ」
  「同時に何枚くらい焼けるんですか」
  「12枚くらいかな」
  「すっごいですねえ。ところで、都内で、こういううすい系でお
いしいピザ屋さんはありますか?」
  「そうだねえ、あんまりないねえ。みんな生地で手を抜くからね
え。イタリアにはたくさんうまいのがあるけどね」
  そして、一枚のショップカードを僕に手渡した。「これ(自分の
)師匠の店でね。ここのはうまいですよ。ただ、うちみたいな薄い
のはもうやめちゃってね。厚いナポリ風になっちゃったんだ」
  もらったショップカードには、神奈川県津久井郡の「ドリームフ
ァーム」という店名が書かれていた。八王子の先だ。「ドリームフ
ァーム」で修行したので、のれんわけのような形で「ドリームファ
クトリー」になったわけだ。

                          *****

  外に出ると、さらに日差しが強くなっていた。車の扉を開けると
、中からムワっとした暑い空気が吹き出す。夏だ。エンジンをかけ
、クーラーを最強にするが、すぐにはきかない。
  今日は一年で一番日照時間が長い日だという。夏が終われば、本
島さんも深山亭の蕎麦にありつけるかもしれない。彼にとって、暑
い間はじっとがまんの季節だ。
  苦笑しながら、本島さんは言った。
  「夏休み中は、(深山亭も)夏休みだし、もう今度は、有休とる
しかないですね」  
  ドリームファクトリーで、深山亭の蕎麦を夢見た初夏の一日であ
った。

                        *****
    
MASAHARU YOSHIOKA
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