Ray Charles VS Norman Sheef: Conversation Of The Masters

達人。

レイ・チャールズの最後のアルバム『ジーニアス・ラヴズ・カンパニー(邦題、ジーニアス・ラヴ~永遠の愛』が発売された。このCDには、なんとエクストラ映像が入っていた。僕は音だけしか聴いていなかったので、これはびっくり。

今作のジャケットの写真を撮影しているのは巨匠ノーマン・シーフ。その他に何人かの写真家がいる。そして、そのヴィデオ映像は、1985年、シーフがチャールズを撮影している時の記録映像だ。シーフがスチール写真を撮影している間中、チャールズに話しかけ続ける。キーボードの前に座ったチャールズは、時に演奏しながら質問に答える。

シーフは「初めてピアノを弾きだしたのはいくつの時ですか」と尋ねる。きっとこの質問は、レイ・チャールズへの万国共通の質問なのだろう。レイが「3歳の時から・・・」の話をする。その間も、ノーマンはパシャパシャとシャッターを切っている。そして、蝶ネクタイと新しいスーツに着替えたレイが再登場。今度はキーボードを弾きながら、会話が続く。

このシーンを見てノーマン・シーフの写真家としての魅力を垣間見た。なるほどねえ。こういう風な撮影セッションなんだあ。ノーマンとレイの間の会話でレイが乗ってきているのがわかる。そして、いい表情をするようになる。静物を撮るのと違い、人物を撮るということは、その瞬間瞬間を切り取らなければならない。ある瞬間は二度と繰り返されないのだ。名写真家というのは、きっとその一期一会の素晴らしい瞬間を切り取る確率が高い人なのだろう。ここでは、写真の達人が音楽の達人を撮影している。

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生前葬。

彼が6月10日に亡くなっているという強烈な事実があるゆえに、改めてこのアルバムを聴くと、胸を打たれる。最後のアルバムが全曲デュエット・アルバムになっているところも運命的だ。確かに声が震え、その声力も全盛期と比べたら、弱々しいところもある。だが、今となってはそんなことは関係ない。

このアルバムの中で最初にレコーディングされた曲は、2003年6月のヴァン・モリソンとのデュエットだ。そして、最後に録音されたのが、今年3月録音のエルトン・ジョンとのデュエットとなった「ソリー・シームス・トゥ・ビー・ザ・ハーデスト・ワーズ(悲しみのバラード)」である。エルトンの曲は、好きな人から「つきあえません、ごめんなさい」と言われる歌。タイトル直訳は「『ごめんなさい(sorry)』という言葉は、もっともつらい一言だ」という意味。奇しくも「Sorry」は、「残念です」という死去に際してのお悔やみの言葉でもある。日本語で言えば「ご愁傷様です」にあたる。よって、この曲は「『ご愁傷様です』という言葉は、もっともつらい一言だ」ということにもなる。

レイは最後の力を振り絞って、マイクに向かい、ありのたけを歌った。若きシンガーから何十年も親友であるヴェテラン・アーティストまで、全米の音楽家たちがレイの周りに集まって、レイのために歌った。これは、言ってみればレイのための最高に派手な生前葬だ。レイ・チャールズ自身がその生前葬で辞世の歌をソウルを込めて吹き込んだ作品がこれだ。

レイ・チャールズは、クインシーからもらった5セントを片手に握り締めて、今、虹のかなたにいることだろう。

(8月29日・日曜日の『ソウルブレンズ』内「山野ミュージックジャム」=午後4時半から=でこのアルバムを紹介します)

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