Every Seat Is Good Seat, Every Moment Has Good Tension, Every Song Has Its Own Colour

緊張。

生の楽器をアンプを通さずに聴くということは、今の時代、とてもぜいたくなことだ。妹尾武さんのピアノコンサートは、彼が触れた鍵盤から力が伝わり、ピアノ線を叩き、その叩かれた音が、天井高ゆうに3メートルはあるだろう格調の高い会場に響く。どこからも彼の姿が見え、どこに座ってもピアノの音ははっきりと聴こえる。まさにすべての席がいい席(every seat is good seat)、王子ホールでのコンサート。

ピアノシモになると、紙を動かす音さえ響いてしまうほどの静寂が訪れる。音を出してはいけない、くしゃみをしてはいけない、咳払いをしてはいけない、携帯電話の音などもってのほか、などといった無言のプレッシャーが、観客に適度な緊張を与える。人は音や声が小さくなればなるほど、その音源に集中するものだ。妹尾さんのピアノも、実にうまく引いて、こちらの集中力を高める。すべての瞬間がいい緊張の瞬間。

今年1月に続く銀座王子ホールでのライヴ。今回強く思ったのが、妹尾さんのピアノを聴くととてもイマジネーションが広がるので、バックになんらかの映像などをつけたらどうだろうか、ということ。例えば、大人気曲「ニュー・シネマ・パラダイス」のバックで、その映画のシーンが映し出されたり、あるいは、「アパートの鍵貸します」の時に、そのシーンがバックに映し出されたら、女性客の目のハートの数も2倍、3倍になってしまい、ホール中にハートマークがあふれてしまうに違いない。

あるいは「材木座海岸」のバックで、材木座海岸の映像が流れたら・・・。彼が「材木座海岸」を弾いている時にPV(プロモーション・ヴィデオ)のアイデアを思いついた。材木座のいい場所を探し、一年間、カメラを固定して定点で映像を撮影し、春夏秋冬の材木座を曲と同じ長さの3分余にする、というもの。

しかし、この曲は数ある妹尾メロディーの傑作の中でも特に傑作だと思う。例えば、ジョー・サンプルの名刺代わりの一曲として「メロディーズ・オブ・ラヴ」があるように、ヘンリー・マンシーニに「ムーンリヴァー」があるように、ミッシェル・ルグランに「サマー・ノウズ」があるように、妹尾武にこの「材木座海岸」あり、となってもまったくおかしくない。もちろん、「キセキノハナ」や「永遠に」という超ビッグな名刺もあるのはわかっているのだが・・・。将来的にはいろいろ、七変化でこの「材木座海岸」を聴いてみたい。よく考えてみれば、ジョー・サンプルなど「メロディーズ・オブ・ラヴ」を4半世紀もほとんど毎回違うように弾いてきているのだ。

そして、この曲に限らず、彼が弾くメロディーにはどれにも映像がふんわりと浮かびあがってくる。すべての曲に、あらゆる映像。

今回は、司会ぶりもおもしろかった。いきなり、冒頭で「今回はちゃんと財布も置いてきて・・・」で大爆笑をつかんで、その後は、かけあいも含め実にいい味がでていた。

ところで、すいません、懺悔(ざんげ)があります。静寂の緊張の中で、膝の上に置いていた携帯を床に落してしまったのは僕です。一度、なんとか止めようとおもったのですが、結局でてしまったくしゃみをしたのも僕です。

今回はギターの天野清継(あまの・きよつぐ)さん、チェロの落合範久さんとのコラボレーションもヴァリエーションを出すという意味で、よかったと思う。そして、最後に「永遠に」を観客に歌わせたところは、やられた。しかも、女性ばかりなのでほとんど女性コーラス隊になって、しかもみんな歌えるときた。

月並みな表現だが、妹尾ピアノはやさしい、気持ちいい、癒される。次回は、材木座海岸に近い鎌倉プリンスですか。ロケーション、できすぎです。

すべての席がいい席。すべての瞬間がいい緊張の瞬間だった。そして、すべての曲にあらゆる映像があり、すべてのメロディーに色があった。

Setlist (incomplete)

show started 18:06

1st set

1. 蒼茫
2.ニュー・シネマ・パラダイス
3.アパートの鍵貸します
4.港が見える丘
5.「彼女は死んじゃった。」メドレー
彼女は死んじゃった。テーマ~星の灯篭 ~ 5:55 
6.メロディー
7.「花にまつわるエトセトラ」メドレー
花のまち~枯れない花~春よ来い~赤いスイートピー
8. キセキノハナ

2nd set

9. キャニオン・ロード ~ ハウ・インセンシティヴ
10.オーヴァージョイド
11.渚橋
12.最初から今まで ~ 「冬のソナタ」より
13.春にして君を想う
14.KYOTO (京都) 
15.新大阪
16.材木座海岸
17.永遠に

アンコール1. 爪痕
アンコール2. 浜辺の歌
アンコール3.  星霜

show ended 20:41

(2004年5月15日土曜日・銀座王子ホール=妹尾武ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Senou, Takeshi

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