△マーヴィン・ゲイ自伝『引き裂かれたソウル~マーヴィン・ゲイ物語』~翻訳大詰め進行中

△【マーヴィン・ゲイ自伝『引き裂かれたソウル~マーヴィン・ゲイ物語』~翻訳大詰め進行中】
助け舟。
とりあえず、288ページ(=28章、全340ページ36章中)までの見直し作業を終えて、あと約50ページ。舞台は、イギリス・ロンドンからいよいよベルギーのオステンドへ。オステンドはフランスの港町。ここにいるプロモーターのフレディー・クーサートを頼ってマーヴィンはロンドンを離れこの地に引っ越す。1981年のことだ。マーヴィンの逃亡生活は依然続いている。
彼がアメリカに帰れないのは、税金問題、慰謝料問題などがあり、もしアメリカに戻ると逮捕されてしまうのではないかという恐怖心があったためだ。オステンドはひじょうに居心地がよく、ここで彼はかなり英気を養う。街にある大きなスタジオでピアノを弾いたり、現金を稼ぐためにヨーロッパでツアーをやろうとして、そのリハーサルをする。徐々に彼のメンタルは復活しそうだった。
彼は常に戦う男だった。妻たちと争い、父と争い、レコード会社社長で義理の兄であるベリー・ゴーディーと争い、アメリカ合衆国と戦い、あちこちに争いの種があった。どんどんと追い詰められ、行き場がなくなり、彼は自殺さえ考える。プロモーターとやりあい、マネージャーとも議論し、マーヴィンの周囲には衝突があふれていた。
そして、ベルギーのオステンドまではるかロスアンジェルスからひとりのディレクターがやってくる。CBSレコードのラーキン・アーノルドだ。彼はマネージャーのカーティス・ショーからの誘いで、マーヴィンをCBSへ迎えることを検討し始める。しかし、そこには問題が山積していた。
まずモータウンとの契約。残っていたモータウンとの契約をどのように解消するのか。次に税金滞納問題。アメリカに入国するには、それらをクリアにしておかなければならない。そして、妻への慰謝料。ラーキンとカーティスは、この複雑に絡み合った糸を1本1本丁寧にほぐす。
そして、周囲の誰もが彼にはまだ才能が残っているのかどうか、疑問に思う。いかにして奇跡の復活は起こるのか。彼がどん底に落ちれば落ちるほど、どこからとも助け舟が手を差し伸べてくる。
あるとき10年来の友人、ジェフ・ウォルドがロンドンのマーヴィンのアパートを訪れる。彼は音楽関係の仕事をしている人物で、前妻はシンガーのヘレン・レディーだ。そのアパートは本当にひどいものだった。
ジェフが言う。「マーヴィンは私に言ったよ、10セントも持ってないんだ、って。彼の不渡り小切手も出回っていた。彼は、私にフェーマス・エイモス・クッキーの彼の持分の株を買ってくれないかと頼んできた。彼と私とヘレンは、最初の投資家だったんだ。私は彼に言った。『聞いてくれ、マーヴィン、これから大きな仕事があるんだ。いま、少し金を渡す。でも君の株はいらない。君が自分をそうやってだめにしていると、君はそこの息子のために何も残してやれなくなるぞ。その株は息子のためにとっておきなさい。たくさんのキャッシュを持っていた。7000ドルから17000ドルかあるいは、ポンドだったか、でも、それを彼に手渡したんだ。私は彼に言った。彼は自分自身の人生を台無しにしている本当にくそったれの馬鹿野郎だってね。(中略) 彼はコカインをやっているだけでなく、フリーベースもやっていた。私は彼に言った。『なんてひどい話だ。恥ずかしい。もし君がちゃんとクリーンになったら、君こそ「ブラック・シナトラ」になれる、唯一の人物だろう』って」
マーヴィンは告白した。「もう本当に僕の人生は行き詰って終わっていた。僕のレコードは出たけど、僕はそれが大嫌いで、ベリーは僕の作品はずっと何年ももう売れなくなった、と言っていた。モータウンと僕は、もう終わったんだ。僕は(歩いてきた)後ろの橋を燃やしてしまった。でももう気にはしてない。BGと僕は、もはや取り返しのつかないところまで来てしまった」(『引き裂かれたソウル~マーヴィン・ゲイ物語』から)
さあ、もう一息です。しばしお待ちを。
■ マーヴィン・ゲイ唯一の本人語り下ろしの自伝『マーヴィン・ゲイ物語~引き裂かれたソウル』(デイヴィッド・リッツ著、吉岡正晴翻訳監修=ブルース・インターアクションズ、2009年4月17日発売予定)
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