▽ロバータ・フラック・ライヴ

▽Roberta Flack Live: Audience Set Her Soul On Fire

【ロバータ・フラック・ライヴ~いい日に当たった】
幸運。
昨年(2007年)4月以来、ほぼ1年ぶりのヴェテラン女性シンガー、ロバータ・フラックの自由度あふれるライヴ。ロバータのライヴは、多分初めて見たのが1975年か(要確認)、それから1980年2月のものはよく覚えている。たしかスイートベイジルの1998年12月のオープニングもあった。(その間にも来日多数) 2000年代に入ってからは4度目の来日。
ロバータのライヴは、その日の気分しだいでかなり出来が違う。のりにのると、観客を巻き込み、集中させる見事なパフォーマンスになることもあれば、さらっと流した感じの60分で終わってしまうということもある。いい日に当たると、本当に感激もひとしおだ。
さてこの金曜セカンド・ショウは途中から魂が乗り移ってきた感じがして、最後にはヴォルテージは最高潮になった。オープニング、ドラムスのイントロからロバータが登場するなり、いきなり「キリング・ミー・ソフトリー」から始まる。その声は、レコードの声とほとんど変わらない。声から年齢はとても推量できない。もちろん若干かすれ気味、レコードの声と比べれば少しは年を取ったということも言えるが、そんなことはまったく気にならない。
ロバータのライヴは事前に決められたセットリストがない。その場その場でロバータが思いついた曲を歌い始める。だからミュージシャンは最初の音で、あるいはキューでその曲についていかなければならない。この日も時に、ロバータは歌詞カードを探しながら、次にやる曲を決めていた。
次のアルバムに収録される予定の新曲も何曲か披露された。71歳にして、果敢に新曲である。尊敬だ。そんな1曲「アイル・スタンド・バイ・ユー」は初めて聴いたが素晴らしいバラードで感動した。「なぜあなたはそんなに悲しそうなの。その暗闇から抜け出すのを手助けさせて。私はいつでもあなたの傍らにいるわよ(I’ll Stand By You)」 初めて聴くにもかかわらず歌詞が持つストーリーが自然に入ってくる。観客にディーヴァ・グレイとその友人がいて、盛んにロバータに声をかける。
その曲を終えて拍手が来ると、ピアノの前に座ったロバータは何枚も置いてある譜面をぱらぱらとめくりながら「あ、これにしましょう」と言って「ユーヴ・ガッタ・ア・フレンド」を歌いだした。レコードではダニー・ハザウェイと歌っているが、ここではキーボードのひとりシェルトン・べクトンとデュエットを聴かせた。シェルトンの声がまた渋い。このあたりでロバータのソウルに火がついたと思う。万雷の拍手の中、そのシェルトンが舞台中央のグランドピアノ、今までロバータが座っていたところに呼び寄せられた。ロバータは後ろに下がりソファに座る。何をするのかと思いきや、このシェルトンがピアノの弾き語りで、バック演奏まったくなしで歌いだしたのだ。これがまたゴスペルっぽい素晴らしいバラードでどんどん引き込まれる。I will love you most of all というフレーズが繰り返される。ロバータは紅茶をすする。シェルトンはたったひとりで、ロバータのステージを大泥棒だ。これまた予期せぬ感動を得た。
シェルトンの歌が終わるや、ロバータは「私はこの後、どうすればいいのよ」とあきれる。それほど見事だった。彼女は、今度はバックコーラスのトニー・テリーとさらっとおなじみの「ホエア・イズ・ザ・ラヴ」でペースを変える。このあたりの流れの持って行き方がヴェテランの手練手管(てれんてくだ)か。こうして流れを自分に引き戻し、ここで新曲2曲を歌ってしまう。ロバータには完全に火がついている。ほとんどこの日は彼女はしゃべらず、次々と曲をやっていったが、終わり近くで「今夜はみなさん、本当に素晴らしい観客だわ」と一言。
2曲目の「ソフト・アンド・ジェントル・レイン」は昨年初めて聴いて覚えた作品だったので、よりよく聴こえた。これもいい曲。おそらく次のアルバムに収録されるのだろう。このあたり、みなピアノの弾き語りで歌うために、バックのミュージシャンも思わず佇んだまま聴き入ってしまっている。本編最後の「ファースト・タイム・エヴァー・・・(邦題、愛は面影の中に)」では、手を上にあげるジェスチャー、それはあたかも太陽に手をかざすようにも見えた、でまるで曲を演技していた。詩人が語り部となり、言葉に体のジェスチャーが付き、体全体を使って表現をしているようだった。
そして、エンドテーマとも言える「ラヴ・ミー・イン・ア・スペシャル・ウェイ」(デバージのヒット)で退場。だが感動した観客は拍手をやめない。まもなくステージ後ろのカーテンが開き、終了のサイン。2-3分したところで、「本日の公演は・・・」の終演アナウンスも流れた。それでも観客の拍手がとまらない。それはおよそ6分ほど続いた。こんなことは稀だ。そして、ロバータたちは観念したのか、ついにステージに戻ってきたのだ。
聴きなれたフレーズをやり始めた。何かと思ったらクール&ザ・ギャングの「トゥ・ホット」。最初、まさかロバータがこんな曲をやるとは思わなかったので、しかも歌がなかったのでわからなかった。リードを任されたトニーも歌詞を覚えていないので、サビのところしかできない。(笑) 適当にこれは終えて、今度はビートルズの「カム・トゥゲザー」。どちらも軽いジャムセッション的な、遊びの歌だったが、さすがにこれで終えることはできない。「カム・トゥゲザー」が終わると観客から大拍手が起こる。すると、ロバータは「(拍手を)やめて、やめて」と制止して、「エターナリー」を歌い始めた。ひょっとしてロバータはもっともっと歌うのではないかとさえ思った。この名曲をしっかり歌い終えて、ロバータはステージを後にした。
ロバータはミュージシャンも完璧にコントロールしているが、観客もコントロールしている。僕は他の日には行っていないので、はっきりしたことはわからないが、たぶんアンコールにこたえたのは、必ずしも満席ではなかったこの日の観客が素晴らしかったからなのだろう。ロバータは、特に観客の反応を自身の栄養分にするアーティストだ。このアンコールは、素晴らしい観客だったことへのご褒美でもある。
いい日に当たってラッキーだったとしかいいようがない。
(この項続くかも)
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■ 過去関連記事
前回ライヴ評。
April 18, 2007
Roberta Flack; The Night Marvin Gaye Comes Down
http://blog.soulsearchin.com/archives/001719.html
April 19, 2007
Roberta Flack: Very Spontaneous Live Performance
http://blog.soulsearchin.com/archives/001720.html
■ メンバー 
ロバータ・フラック/Roberta Flack(Lead Vocals)
リック・ジョーダン/Rick Jordan(Drums)
モリス・プレジャー/Morris Pleasure (Keyboards)
シャロッド・バーンズ/Sherrod Barnes(Guitar)
ジェリー・バーンズ/Jerry Barnes(Bass)
トニー・テリー/Tony Terry (Background Vocals)
アルチューロ・タッピン/Arturo Tappin(Horns/Flute)
シェルトン・ベクトン/Shelton Becton(Keyboards)
■セットリスト
Setlist : Roberta Flack @ Billboard Live, March 7th, 2008
ロバータ・フラック
(transcribed by yoshioka.masaharu)
Show started 21:34
01. Intro
02. Killing Me Softly With His Song
03. Say No (new)
04. Oasis
05. Here Comes Sun [Beatles]
06. Tonight I Celebrate My Love
07. Feel Like Making Love
08. I’ll Stand By You (new)
09. You’ve Got A Friend
10. (I’ll Love You) Most Of All (new) (sung by Shelton Becton)
11. Where Is The Love
12. Tell Me When (new)
13. Soft & Gentle Rain (new)
14. The First Time Ever I Saw Your Face
15. (End Theme) Love Me In A Special Way [DeBarge]
Enc.1. Too Hot [Kool & The Gang]
Enc.2. Come Together [Beatles]
Enc.3. Eternally
(End Theme) Love Me In A Special Way
Show ended 23:08
(2008年3月7日金曜、ビルボード東京=ロバータ・フラック・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Flack, Roberta
2008-32
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