◇「兄弟の誓い」物語~フィリップ・ウー・ライヴ(パート2)

◇「兄弟の誓い」物語~フィリップ・ウー・ライヴ(パート2)
【”He Ain’t Heavy, He’s My Brother” Saga】
誓い。
2011年5月12日(木)に行われたフィリップ・ウー&フレンズのライヴで、ケイリブの歌で歌われ感動的だった「ヒー・エイント・ヘヴィー・ヒーズ・マイ・ブラザー」。この曲について少しご紹介したい。
これは、ボビー・スコットとボブ・ラッセルという二人が共作したもので、一番最初にレコーディングしたのは、1969年、ケリー・ゴードンというシンガーだった。ただこれはヒットせず。そして、すぐにイギリスのホリーズが録音、1969年9月にイギリス、ついでアメリカでシングル・リリース、全英3位、全米7位を記録。アビー・ロード・スタジオでレコーディングされたここでピアノを弾いていたのはエルトン・ジョンだった。その後、1970年にニール・ダイアモンドがカヴァー、レコーディング。これもシングル・カットされ全米で20位を記録するヒットになった。1988年にはホリーズのものが、イギリスで「ミラー・ビール」のCMで使われ、再度ヒットした。日本ではホリーズのものが有名だが、これには「兄弟の誓い」という邦題がついている。
ところで、この曲を書いた二人は、名作詞家ジョニー・マーサー(「ムーン・リヴァー」など名作多数)に引き合わされ、意気投合。ところが、二人が知り合ったとき、ラッセルはすでに癌に犯され余命いくばくもなかった。彼らは3回ほどしか実際に会うことはなかったが、その短い邂逅の中でこの「ヒー・エイント・ヘヴィー…」を完成させる。しかし、まもなく、ラッセルが他界したために、著作権について、取り分などで裁判沙汰になってしまった、という。
この曲のコンセプト、タイトル自体は1920年代からあったという。直訳すると、「(背負っている)彼はやっかいものじゃない、重くはない、彼は僕の兄弟だから」といったもの。
1924年9月に、キワニス・マガジンのロー・ファルカーソンというライターが、「ヒー・エイント・ヘヴィー、ヒーズ・マイ・ブラザー」というタイトルのコラムを書いた。このフレーズは古くは1884年頃から言われてきたもので、様々な表現の仕方があったが言わんとすることは同じだ。そして、これは親のない孤児を集めた「ボーイズ・タウン」の創始者エドワード・フラナガンのキャッチフレーズとも関連している。フラナガンは、1941年のクリスマスに雑誌で男の子がその兄弟を背負ってるイラストを見た。その絵のキャプションには、「彼は重くなんかないですよ、僕の兄弟ですから」と書かれていた。これは後にアイデアル・マガジンの編集者となるヴァン・B・フーパーによるものだったが、このイラストとキャプションを気に入ったフラナガンは使用許諾を取り、このフレーズは「ボーイズ・タウン」のモットーとなった。
これより先、1918年にも、同じような話があった、という。小さなスコティッシュ・ガールが、彼女と同じかそれ以上の兄弟を背負って歩いていた。するとそれを見た通りすがりのものが、「どんなにや重いだろうね」と声をかけたところ、すぐにスコティッシュ訛りで「彼は重くなんかない、私の兄弟だから」と答えた、という。血のつながった兄弟だから、何も重くなんかない、というメッセージは普遍だ。
解釈。
そして、訳詞は下記をごらんになっていただくとして、ここから多くのリスナーは、それぞれにこの歌詞を受け取るようになる。そこが音楽の広がりというか素晴らしいところだ。
ある者は、戦争で傷ついた仲間を背負って基地に帰る姿をイメージする。兄弟という言葉が友達、家族のメタファーに広がる。天国へ向かう死んだ弟を背負った兄の彫刻のようなものがある。そして、天国の入口で神が尋ねる。「汝が背負っている者は重くはないか?」するとその男が答える。「(彼は)重くはありません。僕の弟(兄弟)ですから」
背負うものは、兄弟というだけでなく、悲しみや苦しみ、苦労といったものも表わす。ひとたび、この歌が世に出れば、それ以後の解釈は、聴く者の自由だ。
この「兄弟の誓い」とほぼときを同じくして、サイモン&ガーファンクルは「ブリッジ・オーヴァー・トラブルド・ウォーター(明日に架ける橋)」を世に送り出す。どちらも、見返りのない友情、愛を描いた傑作だ。1969年から1970年という時代は、こうした人類愛にあふれた時期だったのかもしれない。
この曲が持つ普遍的なメッセージは、その後の911、イラク戦争、カトリーナの被災などにも有効だ。そして、もちろん今回の東北大震災の被災者にも素晴らしきメッセージとなる。
この「兄弟の誓い」という邦題もなかなか素晴らしい。わずか5文字で、これだけ長い英語タイトルをまとめた。見事である。
そして、この楽曲、ホリーズ、ニール・ダイアモンドのほかに、ソウル・ファンにはデイヴィッド&ジミー・ラッフィン兄弟のものが白眉。ほかに、ダニー・ハサウェイも素晴らしいヴァージョンを録音している。また、ほかに、ボビー・ゴールズボロ、シェール、オズモンズ、オリヴィア・ニュートン・ジョンなどもカヴァーしている。
また、曲調、歌詞のコンセプトなどが、ビートルズの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」(1970年5月からヒット)に似ているので、ひょっとしてビートルズ曲の元、あるいは「ロング・アンド・ワインディング・ロード」にインスパイアーを与えた曲だったかもしれない。
ダニー・ハサウェイ

http://youtu.be/7HFDAp8XVrk
ホリーズ

http://youtu.be/C1KtScrqtbc
ニール・ダイアモンド

http://youtu.be/usZtSl8mX08
ラッフィン・ブラザーズ

http://youtu.be/C2eQMy4Sdso
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「兄弟の誓い」(訳詞)
He Ain’t Heavy, He’s My Brother / Hollies, Neil Diamond, Ruffin Brothers
(Written by Bobby Scott, Bob Rusell)
The road is long, with many a winding turn
That leads us to who knows where, who knows where
But I’m strong, strong enough to carry him
He ain’t heavy – he’s my brother
道のりは何度も曲がりくねり険しく長い
その彼方はどこともわからず、果てしなく続く
だが僕は兄弟を背負って行く、僕は強いから
背負ってる兄弟は重くなんかない、だって、僕の兄弟なんだから
So on we go, his welfare is my concern
No burden is he to bare, we’ll get there
For I know he would not encumber me
He ain’t heavy – he’s my brother
僕たちは歩む、ひたすら歩む。彼の幸せだけが僕のきがかり
彼のこと、重くなんかない。僕たちは必ずかの地にたどり着く
兄弟は僕の足手まといなんかではない
背負った兄弟は重くなんかない、僕の兄弟なんだから
If I’m laden at all, I’m laden with sadness
That everyone’s heart isn’t filled with gladness of love for one another
It’s a long long road from which there is no return
While we’re on our way to there, why not share
もし僕が打ちひしがれたというなら、それはみなの心がお互いの愛の喜びに満たされてない寂しさゆえだろう
この道は、決して後戻りできない長く果てしない道のり
そのはるかなる目的地まで、力をあわせるしかない
And the load, it doesn’t weigh me down at all
He ain’t heavy – he’s my brother
He ain’t heavy – he’s my brother, he’s my brother, he’s my brother
どんなにつらく厳しい道のりであろうと、それは僕をくじけさせることはない
背負っている兄弟は、僕の兄弟なんだから
兄弟は重くなんかない、僕の兄弟なんだから
(訳詞・ソウルサーチャー)
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2 Responses to ◇「兄弟の誓い」物語~フィリップ・ウー・ライヴ(パート2)

  1. MIYAKO says:

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    毎朝大変楽しく拝読している主婦です。いつも本当に勉強になる記事をありがとうございます!
    まさに音楽史に残る隠れた名曲だと思いました。私はホリーズのバージョンを聴いたことがあったのですが、曲の背景とこれだけのアーティストにカバーされていることは知りませんでした。ダニー・ハサウエイのライブバージョンは朝から涙が出ました…
    こうしたライブで取り上げられた隠れた名曲のエピソードなど、吉岡さんならではのお話を是非また記事で音源と映像付きで取り上げて下さると、うれしいです。若いソウルファンにも参考になると思います。

  2. フレーテ says:

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    ちょっと忙しかったもので、先程やっと読ませて頂きました。早く読みたかったのですが、落ち着いてじっくり読み、聴きたかったので(笑)
    ダニー・ハサウェイのは聴いてましたが、各バージョンともに素晴らしいですね!特にラッフィン・ブラザーズのは力強く、かっこいいですね~
    曲にまつわるエピソードなどを教えて頂くと、聴き方が変わりますね。
    いつもほんとうにありがとうございます。