◆マイ・ファースト・ライナーノーツ

◆マイ・ファースト・ライナーノーツ
【My First Linernotes】
ライナーノーツ。
先日、「ソウル・サーチン」のイヴェントのフライアーを配りにいくつかのソウルバーめぐりをしたのだが、下北沢のリトル・ソウル・カフェに立ち寄ったとき、たまたま他にお客さんがいなかったので、しばしマスターの宮前さんと雑談とあいなった。そこで、そのとき話がでたライナーノーツについてを書いてみよう。
■ 初ライナー
日付。
雑談の中で、宮前さんに「吉岡さんが初めて書いたライナーノーツはなんですか」と聞かれ、「メジャー・ハリスのファーストです、1975年の7月か8月に書きました」と答えると、なんと暗がりの中のレコード棚からそのアルバム『マイ・ウェイ』が出てきた。(リトル・ソウル・カフェは何でもある) しかも、輸入盤ではなく日本盤。これはさすがに驚いた。だいたいソウルバーには輸入盤はあるが、なかなか日本盤はないのだが…。ということで、ライナーノーツを中からひっぱりだして見ると、しっかり原稿と僕の名前があり、そこには7月25日と書かれていた。1975年7月25日に書いたのだ。僕はライナーノーツには1枚目から必ず書いた日付をいれている。日付というのは最も重要な情報のひとつだからだ。このライナーは、当時のワーナーパイオニアの折田育三さん(のちにユニバーサル社長)から執筆を依頼されたもので、1600字程度の短いものだった。書き出しはおなじみの書き出し(「今度あなたのレコード・ライブラリーに加わることになった一枚のアルバムをご紹介します」)をここから使った。
ライナーノーツはご存知のようにもともと資料性の高い原稿だ。特に日本の場合、邦楽アーティストの盤にはつかないが、洋楽のものには必ずついていて、そのアーティストに関する情報がいろいろと書かれている。アメリカ輸入盤にはなかなかそうしたライナーノーツはないが、最近ではいわゆる古いものを編纂したライノ・レコードから出ているアーカイブ、集大成的なCDにはひじょうに詳しいライナーノーツが入っていたりする。また1960年代から1970年代初期のアメリカ盤には、ラジオDJが書く「推薦文」のようなライナーノーツがついていたが、これはあまり資料性はなかった。ライナーを書かせて、番組でかけてもらう、というニュアンスが強かったから、特に内容はどうでもよかったのだろう。もちろん、美辞麗句・賛辞が文面を飾る。
■ ライナーに込めるもの
情報欲求。
僕も洋楽に興味を持ち始めた頃、買ったレコードのライナーは本当に隅から隅までよく読んだ。そこに書かれている情報から、そのアーティストの歴史、そのアーティストが影響を受けたアーティストや好きなアーティスト、カヴァー曲があれば、そのオリジナルを探してみたり、と音楽情報欲求はライナーノーツの情報でどんどんと膨らんでいった。
なので、僕がライナーを書き始めたときには、読者に出来るだけアーティストの生の声、事実をありのまま伝え、音楽への興味が広がってくれるようと考えた。そのアーティストが過去に出した作品、シングル盤やアルバムがあれば、それをすべてリストアップする。アーティストのインタヴュー発言があれば、それを紹介する。プロデューサーや参加シンガー、ミュージシャンなどの関係者の証言があれば、それを書く。そうした情報を読みやすいように編集して書く。そこには、そのライターの個人的な感想文などはまったく必要ない。ただの感想文ならば、その作品を聴いたリスナーがそれぞれ感じればいいだけのことだからだ。
そうして事実(バイオグラフィーやディスコグラフィー、インタヴュー)を突き詰めていくと、その原稿(ライナーノーツ)を書いた日付というのはひじょうに重要になってくる。たぶん、書いたときには筆者もそれほど重要とは考えないのだが、これが何年か経つと、この原稿はいつ書かれたものかというのが重要になってくる。ライナーノーツの「賞味期限」というのは、おそろしく長いものだ。もちろん、その作品を初めて聴いたときの印象と何年か後に聴いた印象が違ってくるのは当然のこと。そうしたものではなく、書かれたときは事実とされたものも、後から違ってきたりすることもある、ということだ。
■ 長いスパンで読まれるライナーノーツ
賞味期限。
新聞や週刊誌、月刊誌は次の号が出れば、だいたい前の号は捨てられる。もちろんアーカイブとして残るものもあったり、古い資料として使われることもあるが、だいたい読み捨てられる。ところがライナーノーツは少なくとも次の作品が出たとき(1年後か2年後か5年後かわからない)、必ず読まれることが多い。そしてアーティストに歴史があればあるほど、古い作品のライナーは読まれる。だから、僕なども10年前の原稿を読み返したりすることが多々ある。
さすがに今ではライナーノーツの賞味期限が長いということを意識して書いているが、昔はそんなことは夢にも思わなかったので、ただひたすらアーティストについて調べ、取材ができればして、書いていた。だが、10年後に読み返すとさすがに恥ずかしい記述などがなくはない。僕の場合は資料性・事実を追及して感想文などを極力排除しているので比較的それが少ないように感じているが、それでも元々の事実が違っていたりすることもある。再発のときなどはチェックが必要だ。
書いた日付が重要になってくるのは、こんなときだ。たとえば、当初発表された情報が間違っていたり、あるいは恣意的にレコード会社に都合のいいストーリーが作られて発表されていたりすることがある。それが何年か経つと明らかになって間違いが訂正されたりする。そうすると、その原稿を10年後に見たときに、いつの時点で書かれたものかがものすごく重要になってくる。「これは、まだ当初の間違った情報を元に書かれたものだからしょうがない」とか、「この時期にまだこんな情報を書いてるということは、書き手として情報収集がなってない」といったことが判断されるわけだ。
■ ジャーナリスティックな視点でのライナーノーツ
修正。
またライナーノーツは発売日の関連もあってひじょうに限られた時間内に書かなければならないから、どうしても情報収集にも限界がある。たとえば、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイング・オン』のアルバムなど、これがリリースされたときには、なぜマーヴィンがこのようなアルバムを出したのかなど、わかる人はほとんどいなかっただろう。そんな情報はどこにも出てないからだ。
だが、今ではマーヴィンの自伝を読めば、なぜこのようなアルバムが出来たか、その必然性が痛いようにわかる。だから、もしこのアルバムが再発されるときには、当然そうした新しい情報を元に修正したライナーノーツが書かれるべきだ。
恣意的に情報が操作されるという点では、アーティストの生年月日がある。よくあるのが、実際より2歳年を若く発表するパターンだ。プリンスはデビュー当初、1960年生まれとされた。それがアルバム何枚か出るうちに、いつのまにか1958年になっていた。正確にいつ正しい情報に変更されたかは、今は覚えてないが、僕が1984年にアドリブ誌で「プリンス物語」を連載で書いたときには、すでに1958年生まれになっていたはずで、1978年から1984年までのどこかで、正しい情報になっていた。そうすると、最初の1-2枚のアルバムでは1960年生まれを前提に書かれていたとしてもしょうがないが、4枚目以降それを前提に書いているとまずいということになる。
誕生日。
また、僕がなぜアーティストに誕生日を聞くのかというと、誕生日というのは、そのアーティストの歴史が始まった記念すべき日だと考えているからだ。アーティストによっては、特に女性アーティストは、生年を明かすことを嫌がる場合が多いので、無理強いはしないのだが(笑)、だいたい何年に生まれたかわかると、14-5歳~20歳くらいまでが西暦何年くらいで、その頃ヒットした曲が何でということがわかり、ある程度の影響というものが読めてくる。
人間は、大体自分の歴史を自分の年齢で覚えている。「自分が何歳のとき、何々をした。あんなことをした。何歳でどこそこに引っ越した。学校に入った」といった具合で、これを西暦で語る人は少ない。史実を探ろうとすると、これがやっかいなのだ。読者や一般の人は、その人が15歳のときが、西暦何年かはまず考えない。それを西暦に直さないと、情報が整理されにくい。1940年生まれのアーティストの15歳(1955年)と、1950年生まれの15歳(1965年)、はては1980年生まれの15歳(1995年)では、音楽的ベースがかなり違ってくる。
1940年生まれの15歳、1955年にはロックンロールが誕生する。それを目の当たりに感じる。1950年生まれの15歳、1965年にはビートルズがすでに世界を席巻している。誰もがビートルズの影響なしには語れないはず。
そんなことをやって事実を突き詰めていくと、不思議なことにそのアーティストの人となりなどが自然と浮かびあがってくる。そういう意味で僕は調べて調べて調べて書くというタイプで、考えて書く評論家というより、ジャーナリスト的視点が強まったと思う。
(この項~ライナーノーツについて~つづく)
メジャー・ハリスの『マイ・ウェイ』(注:下記の盤には、僕のライナーはついていません)

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