●高山広ライヴ:「ねずぶり」~「ねずぶり」とは、そしてそのメッセージは

【Takayama Hiroshi One Man Play: “Nezu-Buri” Battle Between Rats & Cockroach】
圧巻。
ずっと1人芝居というジャンルで活躍している高山広の大作『ねずぶり』の2010年ヴァージョン公演を目黒のパーシモン・ホールで見た。僕が彼のフル・ショーを見たのは2008年9月以来。前回はいくつかの演目をオムニバスにしたものだったが、今回は2時間超で1本の長編。
予想以上に素晴らしかった。感動した。こう来るか、という想定外のストーリー展開、構成も見事ならパフォーマンスも素晴らしい。しかし、本当に2時間以上、よく1人でしゃべれるなあ、と感心する。
登場人物(動物)は楽に10は越える。前半は、コミカルな調子でストーリーは展開するが、後半は息も付かせぬテンポで、シリアスに畳み掛けてくる。この矢継ぎ早感はたまらない。
後半。ずっとねずみとごきぶりは縄張りを巡って対立していた。ねずみよりも、弱く下の地位にいていつも床を這い回っているごきぶり。ひょんなことから、ねずみがごきぶりほいほいのようなものの中に入ってしまい、強力な粘着テープで身動きが取れなくなる。それを見たごきぶりが普段の恨みを晴らすかのように、ねずみに向かって悪態の限りを付く。エスカレートして怒り心頭になるねずみ。だが、粘着剤のために身動きをとろうにもとれない。
ごきぶりは、ねずみの乱暴な考え方に対してバカにしながらも、説教する。今のごきぶりやねずみが蔑まされていて、お互い憎しみあっているのは、報復の連鎖があるからだ、その報復の連鎖を断ち切らないと、と叫ぶ。するとねずみは、自分の母親を人間に殺されたときの話を持ち出し、そんなごきぶりの理想論なんてクソ食らえといきりたつ。ねずみの母親は生きたままカゴごと水につけられ殺される時に、「誰も悪くない、憎んではいけない、いつか笑って許しなさい」と叫んだ。その体験はねずみに大きな心の傷を残した。そして、ねずみは、何をやったって、かわりゃしないと投げやりになる。しかし、ごきぶりは、すべてをここで止めるんだと強調する。そして、その母親の話を聞いたごきぶりはあることを思いつく。
この部分は本当に圧巻だ。思わず乗り出して見た。これは、それこそ現状の世界で起きている戦争、虐殺などに対する強烈なメッセージになっている。マイケル・ジャクソンのメッセージとも通じる部分だ。そしてその圧巻のパフォーマンスを見ていると、まるで映画かアニメを見ているような気になってくる。
そして、ごきぶりもそのごきぶりほいほいに触れて2人ともそこで身動きが取れなくなる。2人がごきぶりほいほいの上で身動き取れず、人間に捕まって殺される運命をただ待つだけなのか。果たして、彼らは助かるのか。そして、「ねずぶり」の意味は。
しかし、よく動く。体も、口も。お見事。最後の、映画で言えばエンドロールのところまで、1人でやるんだから、おそれいった。(笑)
ライヴ後、高山さんを訪ねると、汗を拭きながら相手をしてくれた。これは1994年の初演以来、何度となくやっているが、大まかなストーリー以外の細かい部分などは、徐々に変化している、という。今回の『ねずぶり』は、9場ある。(場面転換などで9シーンあるという意味) 以前はもう少し場数が多かったらしく3時間近くになっていたそうだ。たった1人で様々な人間、いや、今回はごきぶりとねずみを演じられるというのがすごい。ごきぶりや、ねずみにもそれぞれ、何人かいて名前もついている。
やはり圧倒的に原作(ストーリー)がおもしろい、パフォーマンスがすごい、そして、音楽とのコラボレーションもいい、というすべてが揃った1人芝居だ。落語でもないのに、落語のような要素もあり、漫才的なおもしろさ、あるいは、スタンダップ・コメディアン的な要素もある。そして何より芝居をするという点で演劇だ。
今、高山さんは仲間とこのパフォーマンスに字幕を流せるような仕掛けを作っているという。そうすれば、基本的なセリフは、演技と同時進行で、ミュージカルででるような、字幕が何語でもだせるようになる。そうなると、海外公演も夢ではない。僕はこの『ねずぶり』なんて、ニューヨークやロンドンあたりでやったらけっこう受けると思う。
たった1人の人間、数本のピンスポット、1台のキーボード。これだけミニマムなもので表現される舞台芸術。本当に人間の力の無限の可能性を感じる。Sky is the limit。一体これだけのパフォーマンスの後、高山さんの体重は何キロ減るんだろう。
これだけ作りこんだ芸術作品は、昨今テレビでもてはやされる瞬間芸とまったく対極にある。今のテレビ的ではないだろう。見る側にも集中力が要求されるからだ。真におもしろいものは、テレビにはない。いや、テレビには向かない、ということだ。そして、いいものは何度見てもいい。こういう作品は何度も何度も見られる。土台骨格のしっかりした作品は時の試練に耐えて、何年経っても上演される。こうした作品がもっとじっくりと、広く鑑賞されることを願ってやまない。
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高山広 1人芝居@パーシモン 第2回『ねずぶり』
2010年1月15日金曜、19時~ 目黒区パーシモン・ホール 小ホール
原作・出演 高山広
音楽 只野展也
舞台監督 今井東彦
照明 岩城保
照明オペレーター 正村まさみ
音響 伊東孝
協力 吉田健美 小田史一 井上吐誌 佐藤潤平
制作 渡辺秀也 (株)スコップ
宣伝写真 阪上恭史
announce started 19:00
performance started 19:05
「ねずぶり」(9場)
end roll 21:14
performance ended 21:20
(2010年1月15日金曜、目黒パーシモン・ホール、高山広ライヴ・パフォーマンス)

ENT>LIVE>Takayama, Hiroshi

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