△『ソウル・ディープ』6回目を見て~すっぽり抜け落ちた1980年代

△『ソウル・ディープ』6回目を見て~すっぽり抜け落ちた1980年代
【Soul Deep — From Ghetto To Fabulous: What’s Missing On This Episode】
バランス。
BBC制作の『ソウル・ディープ』の6回目は、「フロム・ゲットー・トゥ・ファブラス」。これは過去5回と比べてかなりつっこみどころ満載だ。まず、この回はブラック・ミュージックのヒストリーを俯瞰したというよりも、メアリー・J・ブライジの特集1時間、という印象が強い。もちろん、それはそれでやる意義はあるのだが、たとえば、ブラック・ミュージックの歴史を1時間x50本やるのであれば、こういう回が1回あってもいい。だが、たった6回の中での1回だと他とのバランスが著しく悪い。ざっくり言うと、1980年代、1990年代のブラック・ミュージック界を俯瞰する部分がすっぽり抜け落ち、コンセプトが甘いと言わざるをえない。
メアリーに1時間割くのであれば、その前に、アリサやアース、クール&ザ・ギャング、オハイオ・プレヤーズ、スティーヴィー、マーヴィン、アイズレイ・ブラザース、ダニー・ハサウェイ、ファッツ・ドミノ、BBキング、マイケル・ジャクソン、プリンス、オージェイズおよびフィリー関連、ジャネット、ルーサー、ナット・キング・コール、エラ、サラ、ダイナなどのジャズ大御所、ダイアナ・ロスなどなど、1時間枠でスポットを当てなければならないアーティストは山といる。
メアリー・Jを紹介する上で、ヒップ・ホップとR&Bを融合したというのは、大体あっているのだが、ここでいうR&Bは、1960年代のR&Bとは少しニュアンスが違っていて、1990年代のR&Bを示している。ブラック・ミュージック(黒人大衆音楽)の呼称の変遷については、6回通して説明(ナレーション)がないので、これだと若干視聴者が混乱する。ここはきっちりと説明すべきだろう。呼称の変遷をフォローすると、ブラック・ミュージックの歴史はかなりわかりやすく説明できる。
『ソウル・ディープ』、最初の5回は全体的に駆け足なのだが、この回だけメアリーと「ヒップ・ホップ・ソウル」について、集中したという感が不自然だ。もしこのあたりを取り上げるのなら、ヒップ・ホップを大きな枠のテーマにし、その最後の部分で、ヒップ・ホップとソウルを融合したメアリーJというスーパースターが誕生した、という流れが自然だ。ヒップ・ホップを取り上げるなら、1979年前後からのラップの歴史を駆け足でもよいので紹介したほしいところ。ラップの最初のヒット「ラッパーズ・デライト」、カーティス・ブロウ、グランドマスター・フラッシュ、そしてランDMCへ。アンドレ・ハレルがあれだけ出てくるなら、ラップ界の大御所ラッセル・シモンズも出さないとバランスがとれない。また、あの編集だと、アンドレ・ハレルが「ニュー・ジャック・スウィング」を作ったかのような印象を与えるが、「ニュー・ジャック・スウィング」を紹介するのであれば、テディー・ライリーなどにも出てきてもらわないと。(もちろん、インタヴューはオファーしたものの、出演を断られたかもしれないのだが)
また、メアリーとホイットニーの対比の仕方が、若干恣意的、あるいは作為的な感じがして公平感がない気がする。白人受けするホイットニーに対するアンチとしてメアリーが登場した、という捉え方は、あまりに表面的でうすっぺらい。よくあるテレビ的で残念だ。音楽業界におけるインパクトから言えばホイットニーとメアリーを比べたら、月とすっぽんだ。それを同列、あるいは、メアリーのほうが黒人から支持されたというのは若干無理があるだろう。
たとえば、メアリーのCDは黒人が300万人買いました。ホイットニーのCDは黒人が300万人買い、白人がさらに600万人買って合計900万枚売れました。ではホイットニーの音楽のブラック度がメアリーの半分あるいは3分の1かというと、そんなことはない。充分ホイットニーの音楽もソウルなのだ。しかし、表面的に見ると600万人の白人が買ったことによって、いかにもその音楽自体が「白人に媚びた」風に映ってしまう。(クライブ・デイヴィスは、白人に売るマーケティング戦略は持っていたが。デビュー時にはそれほどでもなかった)そしてメディアはそう書きたがるのだ。それはマイケル・ジャクソンに対しても同じだ。このあたりの「白人に受けたブラック・ミュージック」というテーマは、ひじょうに深いものになると思う。
ネルソン・ジョージ(『リズム&ブルースの死』『モータウン物語』ほかの著作で知られる黒人の評論家)が、ヒップ・ホップ周辺を含めてこのシリーズの最後を端的にひじょうにうまくまとめていた。ちょっと字幕のニュアンスが微妙だったが、改めて訳しなおすとジョージはこう言っていた。
「黒人文化は、もはや『クール』なんてものではない。『最高にクール』になったんだ。黒人は郊外の白人たちにアピールするために、(黒人側が意識や態度を)変える必要はなくなった。今では彼らのほうが黒人になりたがっているのだ。これは、ものすごく大きな変化だ。かつてモータウンは(白人から)支持されるように対応(順応)した。ホイットニーもそうだ。マイケルはある部分そうだった。だが、今では、そうしたことを取り巻く世界の方が劇的に変わったのだ。これは文化が大きく変わったということなのだ」。字幕では「音楽の力」となっていたが、これは訳が違う。「文化自体が変わった」とジョージは言っていた。ジョージは今回のブラック・ミュージック、ヒップ・ホップなどを「文化全体」の枠組みの中で語っていたのだ。
(誤訳という点では、アレサ・フランクリンをホイットニーの「遠い親戚」としていたのも間違い。「そんなバカな」と思って、あわてて戻して英語を聞いたら、extended familyと言っていた。一緒に仕事をした親しい仲間、という意味だ。親戚づきあいをするくらい仲良し、というニュアンス。遠い親戚とは言えない)
ブラック・ミュージックの歴史を俯瞰し、かつてはしいたげられた人々の音楽が、21世紀になって白人も真似したがるような音楽となり、ヒットチャートの上位を独占するまでになった、ということを最後に簡潔にまとめていたのだが、そう変遷した過程がすっぽりぬけている。どのようにそうなっていったのか。いつからその兆しがあったのか。なぜ、そうなったか。その背景には何があるのか。それを後押しする要因はなんだったのか。ジョージの「文化が変わったのだ」の裏には多くの事実がある。彼の一言は素晴らしいまとめだが、それが番組内60分で紹介されていない。ひょっとしたら、ジョージはインタヴューの中でそうした説明をしていたが、時間の関係でボツになったのかもしれない。つまり、一言で言えば5回目までと6回目の間がすっぽり抜けてないのだ。その間には、ホイットニーやマイケルが大衆から支持された説明、プリンスの音楽が支持されてきた事実などの説明不足感が大きい。
1980年代から1990年代のブラック・ミュージックの周辺テーマとしては、「クワイエット・ストーム」「ニュー・ジャック・スウィング」「フィリー・ソウル」「ディスコ」「ロックとブラック・ミュージック」「ソウル・トレイン」、「MTVとブラック・ミュージック」、「ブラック・ムーヴィー」などいくらでもある。そして冒頭で少し触れられたブラックの間に誕生したミドルクラス(中流)の台頭があった。そのあたりの分析ももう少し深めに欲しかったところだ。
とはいうものの、この1週間「ソウル・ミュージック」の歴史、大変楽しめた。NHKそして、BBCありがとう。そして、見逃した方のために再放送をよろしくお願いします。
そして、BBCには続編あるいは、ヴァージョンアップ版を期待したい。
◎番組のBBCのサイト(各日ごと=プレイ楽曲リスト)
NHKで放送されたものは、10分程度短縮されているので、このリストからいくつか落ちているものがあるようだが、全体的な流れはつかめる。
http://www.bbc.co.uk/music/souldeep/playlists/1/
http://www.bbc.co.uk/music/souldeep/playlists/2/
http://www.bbc.co.uk/music/souldeep/playlists/3/
http://www.bbc.co.uk/music/souldeep/playlists/4/
http://www.bbc.co.uk/music/souldeep/playlists/5/
http://www.bbc.co.uk/music/souldeep/playlists/6/
◎ メアリー・J・ブライジ 「ヒップ・ホップ・ソウル」の登場はブラック・ミュージックの歴史に残る足跡を残しました。傑作アルバムです。(1992年)

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■ ソウル・ディープ関連記事
2010年01月09日(土)
『ソウル・ディープ』をより理解するための書籍など(パート1)
http://ameblo.jp/soulsearchin/day-20100109.html
2010年01月08日(金)
『ソウル・ディープ』を見て~本当に黒人アーティストは1960年代に「クロスオーヴァー」を狙って
いたか
http://ameblo.jp/soulsearchin/day-20100108.html
(参考書籍については、さらにまとめます)
ENT>DOCUMENTARY>TV

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2 Responses to △『ソウル・ディープ』6回目を見て~すっぽり抜け落ちた1980年代

  1. Torako says:

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    はじめまして。
    ソウル・ディープ、楽しみにして録画しつつ見てましたが、なんだか最後のほう、腑に落ちなかった点が吉岡さんの説明で「なるほどー!」と納得です。
    ブラックミュージックというか、洋楽をよく聞くようになったのが最近、しかも古いものばかり、なので入門編としてはNHKやBS-TBSなど良番組が多くうれしいのですが、けっこう訳がいいかげんなんですね…。英語がわからないと「そうなんだ…?」と思ってしまいますね。
    編集する人の意図によってもずいぶんかわりますし、やはりコツコツネットや書籍をあさって、楽しんでいきたいです。これからもソウル・サーチン楽しみにしています!

  2. Mike says:

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    tのほう、フォローさせていただきました :-)
    ソウル・ディープ、偏りがかなり感じられ、僕は食い足りない感じでした。
    『Cool』の変遷? 『Hip』だったり『Cool』だったり、80年代は『Hype』だったり・・・そこが黒人文化と密接に関わってたりしますから、その辺りが感じられなかったですね。
    まぁ英制作らしいと言えばそうなんですけど。
    アメリカでしっかりしたドキュメントを作ってくれると良いんですけどね。