■小川隆夫さん語る: 絶好調トーク(パート4)~マイルスからキャメオまで

■【小川隆夫さん語る: 絶好調トーク(パート4)~マイルスからキャメオまで】
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ホットライン。
マイルスの「マイ・ドック(かかりつけの医師)」となった小川さんは、ニューヨーク、東京などで何度も会うチャンスに恵まれた。そうしたときは、正式なインタヴューというよりも、マイルスが話すことをただ聴くだけだった。テープに録音することもできなかった。
マイルスに呼びつけられて部屋に行く。しかし、早く帰ろうものなら、怒られる。あんまりだらだら長くいても機嫌が悪くなる。どのタイミングで席をはずせばいいのか、まさに「あうんの呼吸」だと小川さんは言う。
マイルスと時間を過ごす時に、してはいけないことがある、と言う。それは質問をしてはならない、ということだ。ただひたすら、マイルスが話したいと思うことを自由に話してもらう、こちらはただ単純にうなずくだけ。うなずきは、最高のコミュニケーションである。
なぜ(Why)、何を(What)、どうした(How)、いつ(When)などから始まるいわゆる「5W1H」の言葉はタブーだ。それでも、時に興味が深まり、そうした言葉を発してしまうこともある。すると、マイルスからは、強烈な答えが返ってくる。「ソー・ホワット(So what…)(だから何なんだ?)」(マイルスの代表曲のタイトルと同じ) この言葉がマイルスの口から出たら、誰もそれ以上先には進めない。「僕は一度だけ、マイルスに『ソー・ホワット…』を言われました…」と小川さん。
■ 「ソー・ホワット」はアルバム『カインド・オブ・ブルー』に

カインド・オブ・ブルー(レガシー・エディション)(DVD付)
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マイルスは質問をしなくても、自由にその時の気分で昔話をどんどんしてくる。だが、小川さんはメモも取らなければ、テープも取らない。「いろんな話をしてくれるから、彼の部屋から出たら、すぐ必死になって思い出して、メモするんですよ」 そうしたメモの積み重ねが、『マイルス・デイヴィスの真実』に結集した。この「部屋を出たら、速攻メモする」という気持ちが痛いほどわかる。僕もそういうときに同じだからだ。
僕自身、かつてジェームス・ブラウンと食事をしたとき、別れた後、速攻メモをした。そうして書いたのがこれ↓ 大体メモを書き出すといろいろと思い出すもの。
2003/10/06 (Mon)
I Ate Chicken With James Brown (Part 1)
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200310/diary20031006.html(リンクがうまく開かないときは、コピー&ペーストしてアクセスしてください)
マイルスはせっかちだという。「たとえば、彼の家に電話をするでしょう。(時間があるときは)彼は『今すぐ来い』って言うんですよ。だから、こちらの準備が整っているときは、彼のアパートの前にある公衆電話から電話をするんです。そうすれば、今すぐ来い、と言われても、すぐに行けますからね。10分で気が変わっちゃって、もう今日は会わない、なんてこともありますから」
マイルスの自宅前の公衆電話は、小川さんにとってマイルスへのホットラインになった。
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傘。
マイルスはことのほか優しい人だ、と小川さんは言う。こんなエピソードを披露してくれた。
あるとき、ニューヨークのマイルスの家を訪ねた。ちょうど昼過ぎでマイルスからは、どこかに何かを食べに行こうと誘われた。とは言われても、ニューヨークで超有名人のマイルスと日本人が2人で食事をしていたら、これは目立つ。小川さんは躊躇し、丁重に断る。するとマイルスは、家の近くにおいしいハンバーガーを出すようなデリがあるから、そこから持ち帰り(テイクアウト)で買ってきて、家で食べようと提案した。小川さんがその店に買いに出た。マイルスのお使いである。
ワンブロックもいかないすぐ近くの店で、小川さんがテイクアウトすると、まもなくパラパラと雨が降ってきた。次第に強くなり、「困ったなあ」と思いながらも、「まあ、ニューヨークの通り雨だから、すぐに止むだろう」としばし店で雨宿りをしていた。
するとなんと、通りの向こうから傘を差したマイルスが小川さん用の傘を1本片手に持って、店の方に向かってくるではないか。小川さんが雨に濡れると思ってとことこと傘を持ってきたのだ。小川さんはさすがに巨匠マイルスに傘を持ってこさせて恐縮した。「いやあ、ほんとにそんなことまでしてもらわなくても、すいません」と言うと、マイルスはきっぱり言った。「(この雨で)お前に風邪をひかれて、オレの責任になっては困るからな」 
その話を聞いた僕と内田さん、思わず「おおおおっ~~!」と感嘆の声をあげた。内田さん、「(今の話し聞いて)涙、出そうになりましたよ」。こういう話、僕も最高に大好きである。小川さんから、生で聞いているだけで、大興奮する。
僕はそのマイルスのセリフを聞いた瞬間、ジェームス・ブラウンみたいだと思った。ミスター・ブラウンも、ある程度打ち解けた仲間(ファミリー)に対して、異様なほどに優しく、気を使う。敵に対しては、鋼鉄の鎧(よろい)を纏(まと)うが、味方(ファミリー、仲間)には徹底して尽くし、優しい。マイルスってきっと、仲間内に対する接し方がジェームス・ブラウンみたいなんだろうな、と想像した。
マイルスとジェームス・ブラウンに黒人としての同じ匂い(ファンキーさ)を感じるが、もし違いがあるとすれば、ミスター・ブラウンは取り巻きを大勢置く一方、マイルスはどちらかというと一匹狼的に動くような気がした。また、ブラウンはほとんど教育を受けることもなく、ストリート叩き上げだが、マイルスは父が医者だったこともあり裕福な家に育ち教育も受けた。ブラウンはストリートから、物を覚え自ら知識を獲得していった。マイルスは教育はあったが、ストリートからも学んでいった。出自は違うが、手にしたものは2人とも似ていた。そういえば、小川さんは、ジェームス・ブラウンのニューヨークで行われた葬儀のパブリック・ヴューイングに参列している。
こうして、小川さんは、マイルスに傘を持ってこさせた男となった。マイルスにお使いに行かされるも、迎えに来させた男でもある。
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ボクシング。
マイルスが優しいという話をもうひとつ。あるとき、彼が日本に来て、ホテルで小川さん、中山(康樹=マイルス・デイビス自叙伝・翻訳者、元スイング・ジャーナル編集長)さんらとルームサーヴィスを取って食事をすることになった。マイルスがいろいろ注文をしてくれ、その食事が到着すると、彼らに「さあ、食べろ」と促す。最初は遠慮しつつも、残しても悪いと思うので、彼らは食べる。すると、マイルスはそっと隣のベッドルームに行って、電話でルームサーヴィスの追加を注文しているのだ。心を許した仲間にはことの他優しい。
マイルスは5歳くらいまで、自分が黒人であることを意識したことがなかった、という。それまで人種差別に無縁だった。父が医師で裕福な環境に育ったからだ。小川さんとマイルスが意気投合したのには、小川さんの父も、マイルスの父もともに医者だったということもあるのではないだろうか、と小川さんは分析する。
他にも小川さんがボクシング好きだったことなども、マイルスとその話題で盛り上がることができた、という。小川さん情報によると、ファンク・グループ、キャメオのリーダー、ラリー・ブラックモンの父親が、人気ボクサー、シュガー・レイの持つジムのトレーナーだったそうだ。ボクシング好きのマイルスは、ラリーの父であるそのトレーナーについていたという。そういう経緯もあって、1988年のキャメオのアルバム『マチズモ』内の「イン・ザ・ナイト」という曲で、マイルスはトランペットを吹いている。
60年代歌謡ポップス、グループ・サウンズから、マイルス・デイヴィス、はては、ジェームス・ブラウン、キャメオまで。その守備範囲の広さに、改めて感服だ。
小川さんは、僕が途中でどんなに突っ込んだ質問をしても、決して「ソー・ホワット…」とは言わなかった。いい人だ。
(とりあえず、この項、一旦休憩=(笑))
■ 「マイルス・デイヴィスの真実」(小川隆夫・著)(さらなるエピソードはこちらの著作で)

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小川 隆夫
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■ 小川隆夫トーク・イヴェント
2009年6月13日(土)18時~21時 「音楽(ONGAKU)ゼミナール@銀座」 ブルーノート特集 会場・銀座バー・ル・セプト(Bar Le Sept) 会費3000円(1ドリンク付き)
2009年7月5日(日)開場15時15分、開演15時30分~17時「ブルーノート大事典」出版記念 会場・自由が丘・ギャラリー悠・地下一階ステージ悠 会費3500円=「ブルーノート大事典」がお土産で付きます。同本ご持参の方は500円。
2009年8月1日(土)「音楽(ONGAKU)ゼミナール・イン・京都」 会場・バー探偵 詳細は近日中に発表
このほか9月に、駒場東大前オーチャード・バーで行った「60年代音楽」の2回目と、ローテーション通りなら銀座のBar「le sept」の予定も。
詳細は、小川さんのホームページへ。(上記トーク・イヴェントの告知もあります)
http://blog.excite.co.jp/ogawatakao/10360021/
(なんと、アドレスをコピーしに行ったら、小川さんがこのソウル・サーチン・ブログのことを紹介してくれていた=(笑) ありがとうございます。またまたブログの無限ループに陥る…)
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ENT>MUSIC>ARTIST>Davis, Miles
ENT>PEOPLE>Ogawa, Takao

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